マジで長いらしい
ある春の日の朝、1人の少女が亡くなった。この桜咲く季節にこんなニュースなど聞きたくないものだ。なんでも、彼女は学校の屋上から飛び降りたそうだ。彼女と同じクラスの生徒2人が止めようとしたが、それは叶わなかった。
――
悲鳴が聞こえる。
またどこかで魂が泣いているのだろうか⋯⋯
よく耳を澄まして聞かなければ。
「⋯⋯ピィ⋯⋯ピィ⋯⋯」
これは⋯⋯!
――
ここはソウル探偵事務所。ここにはソウルという探偵がいるのだが、彼は触れたものの声を聞くことが出来る。犬だろうがホットケーキだろうがどんなものでも、魂の宿っているものの声であれば聞くことが出来るという。彼いわく、この世の全てのものに魂は宿っているのだそうだ。
「そうそう、昨日の夜誰かの悲鳴で目が覚めたんだけどさぁ、よく聞いてみたら悲鳴じゃなくて俺の鼻がピーピーいってただけだったんだよ! え? お前もそういうことよくあるの!? 耳鼻科行けよー! ははは!」
いつも長電話をしているソウルだが、先述の能力のおかげで世界で知らない者はいないほどの有名人なのだ。
「仕事大丈夫かって? 客なんてそうそう来ないよ! うちは浮気調査とか人探しとかはやらないからなー!」
そう、ソウルは探偵でありながら探偵らしい仕事をしないのだ。
そしてなんと、このソウル探偵事務所は実は警察の一部なのだ。国に認められた公的機関であり、警察と共に捜査をしている。なので依頼は個人からではなく、警察から直接受けている。基本的に殺人事件が多い。
「あー、うん、じゃあねー! ⋯⋯ふぁあ」
ソウルは電話を切り、大きなあくびをしている。
「今日はどこに掛けてたんだー?」
ソウルに話しかけているこの男は、いつも彼が世話になっているクリーニング屋の店主だ。ソウルは毎晩クリーニング屋に服を持って行き、次の日の夕方に店主に届けてもらっている。
「今日は魚屋と話してたんだ。向こうも野良猫に魚を取られたり、いろいろ大変だったらしい」
「ふーん」
聞くだけ聞いておいて微妙な反応をする。よくいるタイプだ。それ聞いてどうするんだって感じの。
『ソウル探偵事務所のソウルさん、署長室までお願いします』
署内の放送で呼ばれている。基本的にこういう形で呼ばれる時は殺人事件の捜査だ。
「おお、来てくれたか。早速だが、依頼が入った。今朝ある少女が亡くなったんだが、遺族がどうも納得出来ないでいるらしい」
よくあるケースだ。彼に依頼が来る時はだいたいこうなのだ。
「というわけで、隣の部屋に遺族の方が待っていらっしゃるから頼んだぞ、小林くん!」
「本名で呼ばないでください」
「頼んだぞ、ソウル!」
ソウルは署長室を出て、隣の部屋のドアを開けた。
「失礼します」
「娘は自殺なんてする子じゃありません! 遺書だってなかったし!」
入ってきたソウルにいきなり怒鳴る母親。
「つまり、自殺する理由がなかったということですね」
自殺する理由がないのに自殺したとあれば、もはやバカとしか言いようがない。
「娘さんはバカでしたか?」
ソウルはしまった、という顔をした。思ったことをそのまま聞いてしまったのだ。
「なんてことを言うんですか!」
「失礼しました、お勉強はできる方ですか?」
「これが通知表(通信簿)です、どうぞ」
なんで持っているのか分からないが、とりあえず、と受け取るソウル。
体育と美術が5で、あとは全て1だった。こんな成績で卒業出来るのか、とソウルは思った。
「これが原因なんじゃないのか⋯⋯」
とソウルが呟いた。成績が悪すぎて留年することを苦に自殺をしたのではないかと思ったのだ。
「成績の事で悩んでいた様子は?」
「特になかったように思います。志望大学はスポーツ推薦で合格出来るだろうと太鼓判を押されていたので」
ではなぜ自殺を図ったのか。原因を調べるため、ソウルは署長に貰った資料に目線を落とした。署長が彼女に関する情報を集めて作ってくれたのだ。
中倉 咲良 18歳。
身長151cm 体重××kg
好きなもの スリルのある遊び
嫌いなもの 勉強
さくらという名前の子がこの季節に亡くなる。悲しいことだ。この辺りはあまり事件には関係ないと思い、ソウルは流し見していた。
次は目撃情報だ。校庭にいた生徒の証言によると、屋上にいた咲良がいきなり走りだし、フェンスを飛び越えてそのまま落ちたそうだ。屋上にはもう2人女子生徒がおり、咲良を止めようと追いかけていたという。目撃した生徒は、この3人はいつも一緒だったと記憶しているそうだ。
3人一緒。仲が良かったのか、それとも2人で1人をいじめていたのか。後者だった場合、これが自殺理由かもしれない。
「ソウルさんの評判はお聞きしております。咲良が最後に着ていた服と靴を持ってきました」
ここからソウルは本領を発揮する。まずは、靴に触れ、魂の声を聞く。
『今日は紫色のパンツ履いてたぜ』
こいつらは人の死にあまり関心がなく、ほとんど余計なことしか喋らないのだ。だが、その中に少しだけ大事な内容が含まれていることがある。これまでの事件はそうやって解決してきたのだ。
『パンツを見ることに集中してるから、これ以上聞かれても何も答えられないぜ』
珍しいことではない。靴は大体いつもこういうことしか言わないのだ。次はセーラー服に触れる。
『めっちゃ締め付けられて、痛かった』
どういうことだ? 何に締め付けられてたんだ? とソウルはセーラー服に訊ねた。
『それが、何に締め付けられていたのか分からないんだ。何かに締め付けられていたのは確かなんだけど、紐とかロープとかそういうものは見えなかった』
見えないロープと言ったところか。見えないロープなんてこの世にあるのだろうか。資料と照らし合わせて見るソウル。
腹部に細長い痕。ロープでギュッとされたような痕だったそうだ。背中にはないということは、縛られた訳ではないようだ。
このままでは埒が明かないので、その時屋上にいた2人の女子生徒を呼んだ。待っている間に資料を見ていたソウルは、ある事に疑問を抱いた。
2人の悲鳴を聞いた職員が駆け付け、警察を呼んだと書いてあるが、その職員は救急車を呼ばなかったようで、後ほど別の誰かが呼んだそうだ。パニックになっていたのだろうか。それとも、なるべく救急車に遅く来て欲しい理由があったのだろうか。
2人が来るまでまだ時間があるので、ソウルはその職員の家に行くことにした。電車の中でこの職員の情報を調べているソウルは、また新たな事実に気が付いた。
田端 大智 44歳。担当科目は体育と美術だそうだ。体育と美術といえば、両方ともあの子の得意科目ではないか。これは何か臭うな、と笑みをこぼすソウルであった。