第9話「ライブは大成功…?」
あれから数日。
カーニバルの祭りが目前にまで迫り、アーニャの指導も激しさを増していった。
「はい、そこでターン!」
キュッ、とヒールの靴で回り、一瞬のブレもなく立ち止まる。ピンクのスカートが翻り、その下に穿いたペチコートが顕になる。
「いいよ、いいよ! すごい上達してる!」
パンパンと、アーニャの手拍子に乗せて踊り続ける。外から聞こえてくるジンの音楽に身を任せて、時に跳ねて、時にポーズを決めて笑顔を見せる。
「もう、文句なしだよ! 私も踊るから、一緒に合わせよ!」
アーニャはボクの隣に立つと、外からの音楽に合わせて激しく舞う。
ボク達の呼吸は、バッチシだった。
1人で踊っているときと変わらないくらい、いや、それ以上に動きが良くなっている。
アーニャも同じことを感じたのか、踊りながら目を合わせると、ニコッと笑みを浮かべる。
「これなら、お客さんも絶対に喜んでくれるよ!」
「そ、そうかな?」
「そうだって! 自信持ちなって!」
アーニャが喜んでくれるので、なんだがボクまで嬉しくなってしまう。
それから夜通し、ダンスのレッスンは続いた。たまに、振り付けをしたゲンジ先輩にも見てもらって、細かいところを修正しつつ、ダンスを更に良いものへと変えていった。
疲れはしたけど、充実もしていた。
やがて、ダンスを完璧にマスターして、その日はやってきた。
カーニバル当日。
サンマルコ広場に集まった、超満員の会場。
ステージ衣装に着替えたボクとアーニャ。そして、ギターを担いだジンに、マイクを握っているコトリ。ミクやゲンジ先輩の姿まである。それだけじゃない。今日のために準備してきた実行委員の人たちまで、ステージ裏に集まっていた。
「それじゃ、皆。準備はいい?」
ボクが手を出すと、皆が手を伸ばして重ねていく。
「今日を、最高のライブにしよう!」
「「おーっ!」」
掛け声と共に、会場のスタッフたちと心が1つになる。
皆が慌ただしく走り出す中、ボクとアーニャはステージの垂れ幕の裏で、静かに待機する。
「緊張する?」
「うん、少し」
アーニャの質問に、ボクは正直に答える。
「でも、大丈夫。1人じゃないから。隣にはアーニャがいて、後ろにはジンとコトリがいる。ステージ裏にはミクやゲンジ先輩、そしてステージを裏から支えてくれる人たちだっている」
「そうだね」
アーニャがそっと、ボクの手を掴む。
少しだけ汗をかいた、緊張している手だった。
ボクは何も言わず、そっと握り返す。
わずかな間、ボクとアーニャに静寂が包む。
「準備、OKです!」
ステージ裏から声がかかり、ボクたちは視線を混じらわせる。
「いこっか」
「うん」
そして、ボクたちは。
ステージへと駆け上がる。
眩しいほどのスポットライトと、無数の光球を浴びながら、ボクは精一杯に叫んだ。
「みんなーっ! 今日は来てくれて、本当にありがとーっ!」
一気に盛り上がる会場。
お客さんの熱気がここまで伝わってくる。
「じゃあ、さっそく一曲目にいくよ! タイトルは『あなたが好きだから』っ!」
ギュイーンと、ジンのエレキギターが唸りを上げる。
それと同時に、お客さんの熱気に煽られ、会場が揺れ始めた。
足元が少しおぼつかなくなる。
だけど、関係ない。
今日のために、一生懸命に練習をしてきたんだ。
「いくよ、アーニャ!」
「うん、ユキ!」
ボクたちは踊りだす。
全ては、来てくれたお客さんのために。
今日を最高の日にしよう。
心から湧いてくる高揚感と充実感に身を任せ、花のように、鳥のように、姫のように、踊り続ける。
この日。
ボクたちのライブは大成功を収めた。
――◇――◇――◇――◇――◇――◇――
「どこが、大成功なんだよっ!」
ヴィクトリア宮殿にある十人委員会の会議室で、ボクは心の底から叫んでいた。
会議室にいるのは、十人委員会のメンバーとアーニャ。皆が一様に俯いて、ボクと視線を合わせようとしない。
「結局、小泉副会長の姿は見えないし! ボクの努力は一体なんだったんだよ!」
そうなのだ。
あれだけ頑張って、ライブを盛り上げたにも関わらず、肝心の小泉副会長の姿はどこにもなかったのだ。
完全なる空振り。
ただ、見世物で終わってしまった。




