第63話「銃と怪物」
「グォォォォォォォォ!」
ゲンジ先輩が獣のような呻き声を上げる。
それと同時に、私はクイックドライブを発動させた。
喧騒が遠のき、一瞬が永遠に引き延ばされる。
本日、何度目になるかわからない『クイックドライブ』だ。発動しなかった他のスキルのことを考えると、やはり連続使用は危険かも。
だが、そんなの関係ない!
ジンやミクと違って、私の場合は。一撃が致命傷となってしまう。絶対に、ゲンジ先輩の攻撃を食らってはいけない。
「ふっ!」
ゲンジ先輩の背後に回りこみ、側頭部に渾身の蹴りを叩き込む。
だが、手ごたえはない。
むしろ、私の足が酷く痛み出ほどだ。
「…やっぱり、肉弾戦は得策じゃないか」
『クイックドライブ』の効果が切れる。喧騒が戻り、緩慢になっていた時が再び動き出す。
「…ゥグク」
私を見失って、周囲を見渡す狂戦士。
その横顔に向けて、銃弾を撃ちこんだ。
ダンッ、ダンッ、ダンッ!
三発。狙いを違えることなく、ゲンジ先輩のこみかみを捉える。
しかし、ダメージは見られない。
「相変わらず、デタラメば頑丈さだね」
ゲンジ先輩が私に狙いを定めて、『ベルセルグ』を振り下ろす。
その巨大な剣をかわしながら、私は絶えず引き金を引く。
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ!
頭、顔、関節。
どこを狙っても、まるで効いていない。文字通りの化物だ。
「…なるほど。ジンやミクが苦戦するわけだ」
残弾は残り一発。
私は身を翻してベルセルグの剣筋をかわし、生じた隙に狙いを定める。
ダンッ!
最後の一発が眉間を穿つ。
だが、銃弾は硬い皮膚に阻まれて止まっている。
歪んだ金属の破片となった銃弾は、小さな音を立てて地面に落ちる。
『ヨルムンガンド』の銃弾は全て撃ちつくした。残っているのは、回数制限のある切り札の『魔弾』のみ。
そして―
「ようやく出番だよ。…『フェンリル』」
右手に『ヨルムンガンド』を持ったまま、胸のホルスターからリボルバー式の銃を取り出した。




