第61話「さあ、これで終わりにしよう」
ボクはアーニャを抱きかかえたまま、断頭台から飛び降りた。
止める者は誰もいない。
周りにいる兵士も、無言のままボクたちを注視している。
「…アーニャ」
「…なに?」
アーニャがボクの胸に顔を埋めたまま答える。
「…ボクはこれから、もう一人の仲間を助けないといけない。自分を見失って、自暴自棄になっている、手のかかる先輩なんだよ」
ゆっくりとアーニャを地面に下ろす。
そして、広場の中央に悠然と立っている狂戦士を見つめる。忍者のような格好をした式神たちに翻弄されているのか、何もできずに立ち尽くしている。
だが、その巨大な剣が。一度、薙ぎ払われるだけで、数体の式神が音もなく消えていった。
少し離れたところでは、ミクが式紙を片手に睨みを利かせていた。ボクの視線に気づいたのか、彼女もわずかに目線を配らせる。
「アーニャはここから逃げて。ジンたちが退路を確保してくれている」
「な、何を言っているの! あんな化け物と戦うっていうの!」
アーニャが心配するように叫んだ。
「勝てるわけがないじゃない! ユキも一緒に逃げようよ!」
「ダメだよ。それじゃ、前と何も変わらない。追っ手がかかるだけだよ。…それにね」
ボクは一度、言葉を区切る
「…ボクは『十人委員会』のギルドマスターだからね。仲間のけじめは、ボクがつけないと」
そう言って、一歩を踏み出す。
しかし、そんなボクを引き止めるようにアーニャが手を掴んだ。
「嫌だよ! そばにいてよ、ユキ! もう一人なんて嫌なの!」
「…アーニャ」
ボクは困って彼女の泣きそうな顔を見ていると、横から唸るような声が響いた。
「おいおい、俺達のギルドマスターを舐めんなよ。ダテに、俺らのリーダーをしているわけじゃねぇんだよ」
銀色の狼男が腕を組んで立っていた。
壮絶な戦いがあったのだろう。かなりの深手と、無数の切り傷から血を滲ませている。それでも余裕を持った態度で、ボクたちに笑いかける。
「あ、ジン。生きてたんだね」
「おうよ。ちっと危なかったけどな。…行けよ、ユキ。さすがに俺もミクも限界だ。面倒だから、ここで仕留めてしまえ」
ジンは血のついた銀色のたてがみを揺らしながら、アーニャの隣に立つ。
「この姫さんは俺にまかせろ。指一本、触らせねぇよ」
ボクはアーニャと向かい合う。
目を合わせようとしない彼女を見つめて、そっと手を伸ばす。
そして、優しく頭を撫でた。
「大丈夫だから、ね?」
くしゃくしゃと頭を撫でていると、アーニャが不機嫌そうに唇を尖らせた。
「…嘘ついたら、許さないんだから」
恥ずかしそうに頬を染めて、猫耳のついたフードを深くかぶろうとする。
飾りの猫耳がピンッと立つ。
まるで人に懐かない猫のようだ。
ボクは彼女から手を引いて、その場から歩みだす。
するり、とアーニャの手が離れる。
わずかに残った彼女の体温が、空気に触れて消えていく。
…さあ、これで終わりにしよう。




