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第52話「さぁ、行こう」


「おう、悪かったな。上空で待機させちまって」


「…大丈夫。…街じゃ、召喚できない。…みんな、驚く」


「はっはっは、違いないな」


 コトリの感情の薄い顔に、ジンは愉快そうに笑った。


 …まぁ、確かに。

 こんな天災クラスの幻獣が街の中に現れたら、国中がパニックになってしまうだろう。


 『ラグナロク』は本来、突発的に現れる災害級のボスキャラとされている。何の変哲もない荒野に前触れもなく現れて、プレイヤーたちを恐怖に叩き落す存在。決して、簡単に召喚できる龍ではないのだ。


 だが、高レベルの召喚師だけが受注できるクエストに『ラグナロク』を入手できる方法が記されている。数多くのレアアイテムを手に入れて、最後には『ラグナロク』自身と戦って撃退をしなくてはいけない。

 コトリは、その超ド級クエストを制覇した数少ないプレイヤーであった。召喚するための条件や、長すぎる再召喚時間(リキャストタイム)など扱いにくい召喚獣ではあるが、ボクが知っている中でも、間違いなく最強クラスの幻獣だ。


「…乗って」


 コトリがラグナロクの背中から言った。


「じゃあ、行くか」


「えぇ。ゲンジの奴にきっちりお礼をしないとね」


 ジンとミクがラグナロクに飛び乗っていく。

 ボクも飛び乗ろうとするが、いかんせんラグナロク自体が巨大すぎる。背中に乗ろうとも、その高さは5メートルはあった。武道派の二人はいいけど、サブアタッカー職の魔法銃士であるボクには辛いところ。


「ユキー、大丈夫? なんだったら、手伝おうか?」


 ミクが上から声をかけてくれる。

 だけど、ボクは。ラグナロクの背中にいる仲間たち向けて口を開く。


「いいよ。自分で行けるから」


 ボクは軽く助走して、ラグナロクへと飛び出した。

 それと同時に小さく呟く。


「…『エアリアルドライブ』」


 ボクの足が、何もない空気を踏みつける。

 空気の地面を強く蹴りだして、ラグナロクの金色の体毛に両足をつけると、…そのまま垂直に駆け出した。


「っと…」


 思いのほか勢いがつき過ぎてしまい、ラグナロクの背中を大きく超えてしまった。仕方なく、空気の階段でゆっくりと降りていくことにする。


「…よっと」


 軽くスカートを押さえながら、ラグナロクの背中に降りる。

 すると、ミクが驚いたように口を開けていた。


「ゆ、ユキ!? 今のは!?」


「え? 移動スキルの『エアリアルドライブ』だよ。短い時間だけど、空中や建物の壁を走れるスキル…って、ミクも知っているのね?」


「そうじゃなくて!」


 ミクはボクの肩を掴んでガタガタ揺らす。


「アンタ、スキルが使えないんじゃなかったの! だから、ゲンジの奴にも何もできず負けたんでしょ!」


「ちょ、ちょっと、痛いよ」


「あ、あぁ、ごめん」


 ミクが手を離すと、謝るように頭を下げる。


「…まぁ、いろいろあったんだけどね。とにかく、これでボクも本気で戦える。ミクたちだけに危険なことをさせないよ」


 ボクは軽く肩をなでながら答える。


「作戦は上空で話すよ。コトリ、飛んでもらえる?」


「…わかった」


 コトリがラグナロクに指示を出すと、六枚の金色の翼がはためきだす。 

 そして、瞬く間にボクたちを上空へと連れて行く。ヴィクトリアの町並みがどんどん小さくなっていく。


「へぇ、これは絶景だな」


「…寒いのが欠点」


「そうだな。ちと寒いな」


 ジンが答えると、コトリが何か言いたそうにジンのことを見つめる。


「あー、悪かったって。コトリは偉いな。こんな寒いところで待っていたんだから」


「…別に」


 無表情に答えるコトリだったが、ジンが頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振る。


「…それで、どうするって?」


 ミクが気だるそうに口を開く。

 ボクは軽く咳払いしてから、今回の攻略作戦を説明する。


「今回の目的は、アーニャの救出。場所は宮殿内の牢獄。最大の敵はゲンジ先輩の存在だ。まず一人が宮殿の外で騒ぎを起こして、ゲンジ先輩と宮殿の兵士を引きつける。つまりは、陽動だね」


 そして、手薄になったところで。アーニャを救出する。

 そこまで説明すると、ミクが不機嫌そうな顔になった。ミク自身もわかっているのだ。この中で陽動に向いているのは自分だと。


「…で、その明らかにつまらなそうな役目は誰がやるの?」


「お前だよ、ミク」


 ジンがにやりと笑いながら言う。


「はぁ〜、やっぱりね」


 わかりやすく、ミクが肩を落とす。

 だが、彼女以外にこの役目が担える人はいないのだ。


 一人で多数の人形を操れる『人形使い』のミク。

 一騎当千の彼女でないと、ゲンジ先輩が出てきた時に対応できない。


「ねぇ、ミク。最大でどれくらいの人形を出せるの?」


「そうだね。戦闘するなら100体くらいかな? 防御に専念すればいいなら200体はいけると思う」


「じゃあ、とりあえず。防御用の人形を100体、サンマルコ広場に展開させて。ゲンジ先輩が出てきたら、無理な戦闘は控えてね」


「はいよ。…ちなみに、ゲンジの奴をぶっ飛ばしてもいいの?」


 ボキボキと手を鳴らすミクを見て、ジンが釘を刺す。


「お前、一度負けたんだろ。無茶はすんな。足止めでいいんだよ」


「ちっ…」


 ミクは舌打ちをして、不機嫌そうに口を曲げる。


「ミクが頑張っている間に、ボクとジンが宮殿内に侵入。牢獄からアーニャを救出する」


「…私は?」


「コトリは上空で待機。何かあったら遊撃的に動いて。アーニャを助けたあとは、コトリのラグナロクで脱出」


 ボクが一通り説明するり、皆が納得したように頷いた。

 なんだか、大規模クエストをやる前の作戦会議みたいだ。画面越しかどうかはあるけど、あの空気感は変わらない。


「おい、ユキ」


 ジンの声に意識を現実に戻す。

 気がつくと、ジンがボクに向けて拳を向けている。ジンだけじゃない。ミクやコトリまでもが、ボクに拳を向けていた。


「…ははっ」


 ボクは思わず笑ってしまう。

 そうだ、ボクは一人じゃない。


 頼りになる仲間達がいる。

 本当に、ボクは友人に恵まれた。


「…さぁ、行こうか」


 ボクも、彼らに拳を突き出した。

 

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