第50話「決戦装備」
深夜。
ボクは追放された島の人の手助けを借りて、ヴィクトリア本島へ上陸していた。
夜であるが、人目を避けてサンマルコ広場を大きく迂回する。目的地は広場の向こう側、ボクの住居があった場所だ。黒のローブを頭からかぶり、裏手から自分の部屋を窺う。
予想通り、数名の警備隊が見張っている。
その数は二人。緊張感はなく、眠そうにあくびをかみ殺している。
「…」
ボクは細い路地に身を滑らせると、警備隊の背後に近寄る。男達の他愛ない会話が聞こえたところで歩みを止める。
「ふわぁぁ。あー、眠い」
「おい、寝るなよ。あの鬼隊長にどやされるぞ」
「でもよ。こんなことろを見張っている意味なんてあるのか?」
ボクは会話が途切れるのを待ってから、音もなく路地から飛び出した。そして、一番近くにいた男の首に手刀を入れる。
「ぐっ…」
ドサッ、と小さな音を立てて男が崩れる。
「あ? 何か言ったか?」
音に気づいて別の男が振り向こうとする。その前に、男の口を塞ぎながら素早く後ろに回り込んだ。
そのまま首を絞めて失神させる。
「あぐっ」
どさっ、と男は倒れる。
ボクは周囲を確認したあと、素早く自分の住居に忍び込んだ。
「…やっぱり、武器とかは持って行かれたよね」
クローゼットに入っていた数多の銃と無数の銃弾は綺麗さっぱりなくなっていた。ためしに別の棚を見てみるが、同じように何もない。ナイフの一本すら残っていない。
「…まぁ、予想はしていたけど」
ボクはそう呟きながら、手探りでベッドの下をさぐる。
月も出ていない闇夜では何も見えないが、目的のものを見つけて、それを上に引っ張る。
そこは、人が入ることもできないほどの小部屋になっており、中には、いつくかの銃と銃弾の銃弾の入った箱があった。
「…よかった。やっぱり、ここにあったのか」
ほっ、と安堵する。
最初に武器の入ったクローゼットを見たとき、いつくかの銃がないことに気がついていた。組合の倉庫に預けた記憶もないし、あるとすればこの部屋にある隠し部屋しかない。だけど、どうして。ここにおいてあったのだろうか。
「…今は気にすることじゃないか」
ボクは隠し部屋にある銃を一つ一つ見ていく。
大型のライフル銃、狙撃用のスナイパーライフル、連射のきくマシンピストル。どれも討伐クエストやボス戦で活躍してきた愛銃たち。
その中でも、ボクは比較的小型の銃を取り出す。
マガジンタイプの『ヨルムンガンド』とは異なり、回転式のリボルバータイプの銃だ。
魔銃『フェンリル』。
通常弾専用の銃で、魔法弾や消費アイテムの属性弾も使えない。攻撃力も利便性も『ヨルムンガンド』に遠く及ばない。だが、この『フェンリル』も魔銃として、他の銃の存在を押しのけるほどの特殊性があった。
次に銃弾を取り出して空のマガジンに詰めていく。
弾を装填したマガジンを、腰のベルトにくくりつけてぶら下げる。『フェンリル』のリロードのために、リボルバー用のクイックローター。閃光弾などの属性弾をポーチに詰めて、腰のベルトにくくりつける。暗器銃『白虎』の銃弾も込めておくが、予備の弾は持たない。
最後に、銃をしまうホルスターに『フェンリル』を収めると、ボクは立ち上がった。
そして、姿見の鏡を見て装備を確認する。
腰に挟んだ、最高火力の魔弾を放つ魔銃『ヨルムンガンド』。
スカートの中に隠した、二連発式の暗器銃『白虎』。
脇のホルスターに、通常弾専用の魔銃『フェンリル』。
ベルトにはいくつものマガジンをぶら下げて、ポーチには予備の銃弾がしまってある。
「…よし」
ボクは装備が整ったことを確認して、音もなく部屋から出て行く。
もうじき、ジン達とも合流する。
勝負は今夜。
…朝日が昇るまでだ。




