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第43話「そして散る、副隊長」


「ぎゃーーっ!」


「助けてくれ!」


「やめろ! やめてくれ!」


 一人、また一人。

 再起不能になった警備隊が海へと放り投げられる。

 海にはもう、力尽きて浮いている人間で埋め尽くされていた。


 まるでゴミのようだ。

 そして、広場に残されたのは。


 …最後の一人だった。


「さぁ。アンタが最後ね」


「ひぃっ!」


 ミクが地面に転がっているダルトン副隊長を、冷ややかに見下している。


「た、頼む! 何でもするから、許してくれ!」


「何でも?」


 ミクが聞き返すと、ダルトンは首が折れるほど激しく頷いた。


「は、はい! 何でもします! 靴だって舐めます! だから、許してください!」 


「そう。だったら…」


 ミクの周りから人形が消えて、ダルトンが安堵の表情を浮かべる。


 そして、次の瞬間。

 隠し持っていた銃をミクに向けて、そのまま引き金に指をかける。


「はははっ、バカめ! 小娘にやられるほど、俺は落ちぶれちゃいねーぜ!」

 

 パンッ!

 乾いた音が響く。


「ははっ! 最後に笑うのは、この俺様なんだ…、よ…」


 ダルトン副隊長の声が、尻つぼみに小さくなっていく。

 驚きに声も出ない様子だった。


「…最後に笑うのは、なんだって?」


 ミクが無表情で問う。

 銃で撃たれた傷など、どこにもない。

 いや、むしろ。彼女が何気なく掴んでいる金属の塊に、その姿を見ている全員が驚愕せずにはいられなかった。


 自分に向けて撃たれた銃弾を。

 彼女はいとも容易く見切って、親指と人差し指で摘んでみせたのだ。


 ミクの人形魔法の『式神』ではなく。

 彼女自身の、反射神経と身体能力によって。


「…あ、ありえん。…こんなこと、あってたまるか」


 ダルトンは驚きのあまり言葉を失う。


 人形使いのミク。

 彼女の恐ろしいところは、支援型の魔法使い職でありながら、素手で敵を殴り倒せる、超前衛的なステータスにあった。


 人形魔法で呼び出す『式神』の強さは、自身の魔力ステータスに影響を受けない。そこに目をつけたミクは、人形魔法を使える最低限の魔力を残して、自身の能力を、腕力、敏捷などの前衛的なステータスに振り分けた。


 その結果。

 『人形使い』という魔法使い職でありながら、自身も前線に出るという。敵を殴り殺せる魔法使いが誕生した。


 ゴブリンの10万体狩り、という超ド級の討伐クエストを、ソロでクリアしたのは、きっとミクくらいだろう。10万の軍勢を相手に、大量の式神を展開させて、ゴブリンたちを笑いながら殴り殺していく姿は、人形使いというよりも世紀末拳法の伝承者のようだった。


 そこでついた呼び名は『一騎当千のミク』。千人のプレイヤーと同じくらい、彼女は集団での戦いに長けている。


「ふーん。意外と、掴めるものなのね」


 そう言って、ミクは。

 指の先で銃弾をころころと転がした後、親指でピンッと弾き飛ばした。


「ぶぼぁ!」


 目には負えない速度で弾かれた弾丸は、ダルトンの鼻の穴に突き刺さる。彼の鼻から、ぼたぼたと大量の鼻血が噴き出てきた。


「…アタシと喧嘩したかったらね、国家規模の軍隊でもつれてきなさい。こんなんじゃ退屈すぎて、あくびがでるわ」


 ミクがダルトン副隊長の頭を掴む。

 そして、そのまま持ち上げた。


「が、がががぁ!」


 小柄な少女が、自分より大きい男を軽々と持ち上げている。

 ダルトン副隊長の頭には指が食い込み、頭蓋骨がミシミシと音を立てている。


「がぁ! こ、こんな細腕のどこに、こんな力が…」


「そういえば、何でも言うことを聞くって言ったよね?」


 ミクの言葉はダルトンに届かない。

 痛みに悲鳴を上げて、子供のように泣き叫んでいる。


「アタシから言うことは、ひとつだけ。二度とこの島に来るな。それだけよ」


 ミクはそう言って、遠投するように構える。


「じゃ、…飛んでいきなっ!」


 ミクはもう一度、大きく振りかぶると。

 右手に持ったダルトン副隊長を、まるで砲丸投げのように放り投げた。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ギュン! 彼の体は真っ直ぐ軍艦へと飛んでいき、甲板へと突き刺さった。


 そして同時に。

 軍艦が木っ端微塵に砕け散った。


「「ぎゃーーーーーーーっ! 」」


 遠くで無数の悲鳴が聞こえた。

 大勢の警備隊の人間が、海に放り出されて必死に泳いでいる。


 それでも、ミクは。自分には関係なさそうな態度で。気だるそうに赤い髪の前髪をいじる。


「はぁ。やっぱり、前髪が短すぎるかな。落ち着いたら髪を整えないと」

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