第42話「散る、警備隊たち」
「な、なんだ、その化物は!?」
ダルトン副隊長は狼狽するように、後ろにのけぞいた。
そんな彼に向かって、ミクは気だるそうに前髪をかき分ける。
「何って? これがアタシの魔法。…式紙を使って人形を呼び出す『人形魔法』よ」
彼女は面倒そうに説明した。
ミクの職業は『人形使い』だ。
人形使いは人形を呼び出して戦う。その最大の特徴は、全職業の中でも唯一、自分以外のキャラクターを操作できることであった。
今、彼女が呼び出したのは近距離パワー型の人形だ。射程距離は短いが、高速で精密な動きと圧倒的なパワーを持っている。銃弾を弾き落とすなど、造作もない。
「ねぇ、アンタ。今、銃を撃ったよね。ということは、アタシを殺すつもりだったのよね?」
「はっ!?」
ミクの威圧感に押されて、ダルトン副隊長が悲鳴のような声を上げる。
「アンタ、理解できてるの? 殺そうとしたってことは、逆に殺されても仕方がないってことが。その覚悟があるの?」
ズンッ!
ミクが一歩踏み出す。
「ひ、ひぃっ!」
ダルトン副隊長は顔中に汗を噴出しながら、悲鳴のように叫んだ。その部下たちも、彼女の威圧感に押されて動揺が広がっている。
「な、何をしている! 撃て! 撃ちまくれ! 島の住人と一緒に、あの化け物ごと撃ち殺してしまえ!」
副隊長の声に、警備隊たちは慌てて銃を構えだす。
「撃てぇぃ!」
パパパパパパパンッ!
数十人の警備隊が一斉に射撃を開始した。銃撃により砂埃が舞い上がり、ミクたちの姿を見えなくなる。
「…ふ、ふは、ふはははは! 相手が悪かったな。多勢に無勢。これだけの人数で銃撃されたら、自分の身も守れんだろうがぁ!」
地面に這いつくばったままのダルトン副隊長が、勝利を確信して高笑いをする。
だが、それすらも長くは続かなかった。
「んがぁ!」
目の前の光景に、ダルトンは目玉が飛び出しそうなほど驚愕していた。
「多勢に無勢? …そうね、その通りだわ」
砂埃が消えたその場所には―
屈強な肉体の男たちが島の人たちを覆い尽くしていた。
皆一様に額には紙が貼っていて、鋼のような肉体をギシギシと軋ませている。
その数、およそ100体。
警備隊の三倍近くであった。
「そんなバァカなぁぁぁぁぁぁ!」
ダルトンが悲鳴を上げる。
それと同時に、銃を持った警備隊からも確かな恐怖が包んでいった。あるものは自分の目を疑い、あるものは脅え、あるものは銃を捨て逃げだそうとしていた。
「気がついてないなら教えてあげる。アンタらは、すでに。アタシの逆鱗に触れていたのよ」
そう言った、ミクの手には。
人形魔法に必要な『式紙』がいくつも握られている。
そして、風が吹き。
彼女が羽織っている着物の内側が露わになる。そこには数えきれないほど無数の式紙によって埋め尽くされていた。
「アタシの名前は御櫛笥青葉。『十人委員会』の『No.6』、一騎当千のミクだ。集団戦でアタシに勝てると思うなよ!」
命令は、…下った。
ミクの呼び出した人形たちが警備隊に襲いかかる。そして、警備隊の人間を捕まえると、無表情のまま拳を叩き込むのだった。




