第40話「その言葉は、すでに暴力となっている」
「そこの赤い髪の女! 止まれ!」
警備隊の1人に声をかけられて、ミクはその場に立ち止まった。
「貴様、すぐに立ち去れ! 我々は重大な任務を遂行中である。それ以上近づけば、国家に反逆するものとして、この場で射殺することになるぞ!」
警備隊の男はマスケット銃を構えると、その銃口をミクに向ける。
無機質な殺意が、彼女を捕らえる。
ミクは無言のまま、立ち止まっている。
「よし! そのまま真っ直ぐ後ろに…」
だが、しかし。
彼女は再び歩き出した。
島の住人達と、彼らを囲む警備隊に向かって。何の躊躇もなく、何の恐れもなく。
「と、止まれ! 止まれといっているのがわからんのか!」
「…」
ミクは何も答えない。
一歩、一歩。確かな足取りで前に進む。
「こ、このぉ~」
男は焦ったように、銃の引き金に指をかける。
そして、ミクに狙いを定めようとした。
だが、その瞬間―
「あ、あれ?」
男は、ミクの姿を見失っていた。
「ど、どこだ!」
あれほど目立つ赤い髪を見失うわけがない。
男は、そう自分に言い聞かせながら、慌てて周囲を見渡す。
「…なぁ、一言いいか?」
ビクッ!
その声は、男の背後から聞こえた。鈴の音のような綺麗な声なのに、男は正反対の感覚に襲われていた。
いつの間に、そんなところに移動していたのか? いや、それよりも。どうして、自分はこんなにも震えている!?
その言葉は、すでに暴力となっていた。
男に額には脂汗が滲み出す。
そして、恐れるように。ゆっくりと声のするほうを見たー
「…消えろ。死にたくなかったらな」
少女と目が合った瞬間。
全身が、戦慄に震え上がった。
そして、理解してしまった。
…この少女に、歯向かってはいけない!
「ひ、ひぃぃ!」
男はその場に転がり落ちた。
がくがくと体中を震わせて、その顔は恐怖に染まっている。何事かと同僚たちの注目を集めて、指を向けられて笑われる。だが、そんなことすらどうでもいい。
自分の命は、今、確実に。
この少女に握り潰されようとしている!
「…こ、殺される。ここにいたら殺される!」
それから男は。
声にならない悲鳴を上げて、その場から逃げ出した。
カタン、とマスケット銃を放り出して、今まで培ってきた信頼をも投げ捨てて。男は逃げ出した。
だが、後に。彼は知ることになる。
…自分は逃げ出して正解だったということを。




