第3話「鏡に映る顔」
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ピピピ、ピピピ。
ボクはスマートフォンのアラーム機能で目を覚ました。
時刻は6時半。いつも通りの起床時間だ。
「…うーん。また、寝落ちしちゃったか」
電源のついたパソコンを見て、ため息をつく。画面には、ボクが熱中しているゲームのオープニング画面が流れていた。
《カナル・グランデ》
ジャンルはオンラインRPG。
海に浮かぶ海洋国家『ヴィクトリア』を舞台に、様々な依頼やクエストに立ち向かっていく王道の冒険ファンタジーだ。
クエストの種類は様々で、ダンジョンのボスの討伐から、町の住人の頼みごとを聞く、お使いクエストまで色々ある。
もうサービスが開始されて、10年以上は経つ老舗のオンラインゲームだ。ただ、最近はアップデートの頻度が悪く、遊ぶプレイヤーも減ってきているようだ。
サービスが終了、つまりゲームが終わってしまうっていう物騒な噂もあるけど、あまり深刻に考えていない。
「…あー、体が痛い」
机に向かったままキーボードを枕にしていたので、体中がギシギシいっている。お風呂にでも入りたい気分だが、そんなことをしていては学校に遅刻をしてしまう。
ボクはパソコンの電源を落としてカーテンを開ける。
太陽の光に目を細めながら、学校に行く支度を始める。制服に着替えて、学生鞄を片手に抱え、最後に寝癖がないか鏡を覗き込んだ。
「…はぁ」
思わずため息が出てしまう。
ボクは鏡が嫌いだった。
正確には、鏡に映った自分の姿が嫌いだっだ。
「…どうしてボクは、母さんに似てしまったのだろうか」
中性的というより、女性的な顔立ち。
白い肌に、大きな瞳。
男にしては身長が低く、体の線も細いので、男子の学制服がとてつもなく似合わない。
それがボク、御影優紀だった。
優しい紀とかいて『ゆうき』と読む。名前まで女の子みたいだ。
ためしに、鏡に向かって笑ってみる。
にこっ。
鏡の中の女の子が、ボクに笑いかけていた。
それくらいボクは女顔だった。
「…は、はは」
失笑しながら肩を落とす。
美人で童顔だった母さんに似てしまったせいで、ボクは様々な苦労を背負わされていた。友達にからかわれたりするくらいならいいけど、下駄箱に男子からのラブレターをもらったときには、さすがに眩暈がした。
2つ年上だった姉さんとも瓜二つだったので、近所のおばさんからは姉妹だとよく勘違いされていた。どうせなら男らしかった父さんに似ればよかったのに。
などと、無駄な妄想をしていても仕方ない。ボクは気を持ち直して、誰もいない部屋に声をかける。
「いってきます」
当然ながら、返事は返ってこなかった。