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第30話「それは、いつもの放課後の出来事」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 それは、いつもの放課後の出来事。


「それじゃ、帰りにゲーセンにでも寄っていくか?」


 みんなが下校を始める教室で、友人(ジン)が声をかけてくる。それに答えるのは、ボクと『彼女』だった。


「おっ、ジンにしては良いことを言うじゃない。アタシも行く」


 明るく染めた茶髪に、着崩した制服。気さくな態度の少女。

 御櫛笥(みくしげ)青葉(あおば)さんだ。中学からの友達で、陸上部の部長にして幽霊部員。


 そして、オンラインゲームのギルド。『十人委員会』のメンバーでもある。


 そもそも『十人委員会』とは、雨の日に運動部が暇つぶしに始めた集まりに過ぎなかった。なんとなくクエストに参加したり、部活内の連絡のやり取りをしたり。最初は、戦闘系ギルドですらなかった。


 だが、ある時。

 オンラインゲームの《カナル・グランデ》に、ひとつのシステムが登場する。


 それが『継承システム』。

 自身のキャラクターの消滅を条件に、能力やスキルなどを他人に受け渡すシステムだ。ボーナスポイントもつくので、『継承』を繰り返せばキャラクターはどんどん強くなっていく。

 だが、せっかく育てたキャラクターが消えてしまうので、積極的に活用するプレイヤーは少なかった。


 部活の暇つぶしにしか使っていなかったキャラクター。それらは部員の卒業と同時に不要となり、どうせならと『継承システム』を使って、次期部長へとキャラクターの能力を引き継がせていった。


 そして、10年。

 気がついたら『十人委員会』は度重なる『継承』によって、最強と呼ばれる戦闘系ギルドになっていた。先代の部長・部員たちが培ってきた数値的な能力。数々のスキルや魔法。それらを、今の部長たちが引き継いでいるのだ。


 陸上部の幽霊部長。

 メンバーから『ミク』と呼ばれている御櫛笥(みくしげ)さんも、その一人だった。


「おい、ミク。いちいち棘のあることを言うな。そんなにツンツンしてたら、ユキに嫌われるぞ」


「ばっ!? なんで、そこにユキが出てくるのよ!」


 御櫛笥さんが顔を赤くさせながら、ジンに飛び掛って首を締める。


「ぐっ、ふぅ! やめろ!」


「アンタがバカみたいなことを言うからでしょ! 体育会系を舐めんな!」


「黙れ、ツンデレが! お前がわかりやす過ぎるんだよ!」


「ツンデレじゃないっての!」


 御櫛笥さんは、ちらちらとボクのほうを見ては、恥ずかしそうに顔を赤くさせる。


「言っておくけど、ジンが言ってることは適当だから! ユキも信じたら承知しないわよ!」


 そんな彼女の必死な反論に、ボクはいつものように微笑む。


「ははっ、大丈夫だって。ジンの言うことなんか、真に受けたりしないよ」


「え? …あ、そうなんだけど。…えーと、そうじゃなくて。…う、うぅ〜」


 ボクが答えると、御櫛笥さんは悩むように頭を抱える。そして、恥ずかしそうに大声で叫ぶのだった。


「ゆ、ユキの馬鹿!!」


 着崩した制服に、明るい茶色で染めた髪。

 そんな彼女の顔は、夕陽のように真っ赤だった…



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



「ほらほらっ! そこの看守、サボってんじゃないわよ!」


 薄暗い廊下から、ツンツンした女の子の声が響いている。


「看守長はどこに逃げたの!? 組織のトップが率先して動かないと、下の者はついてこないでしょ! そんなの高校の部活だってわかるわよ!」


 刑務所の中は、男たちの悲鳴で溢れかえっていた。


「だ、誰か、あの人を止めてくれ!」


「やめてくれ、姉御! また牢獄が壊れちまう! もう鉄格子を修理する予算すらないんだ!」


 懇願するように頭を下げる看守たち。

 そんな彼らに、牢屋の中から厳しい声が響く。


「黙りなさい! そもそもトイレ掃除くらい自分達でしなさいよっ! なんで、アタシたちがそこまでやらなくちゃいけないのよ!」

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