第30話「それは、いつもの放課後の出来事」
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それは、いつもの放課後の出来事。
「それじゃ、帰りにゲーセンにでも寄っていくか?」
みんなが下校を始める教室で、友人が声をかけてくる。それに答えるのは、ボクと『彼女』だった。
「おっ、ジンにしては良いことを言うじゃない。アタシも行く」
明るく染めた茶髪に、着崩した制服。気さくな態度の少女。
御櫛笥青葉さんだ。中学からの友達で、陸上部の部長にして幽霊部員。
そして、オンラインゲームのギルド。『十人委員会』のメンバーでもある。
そもそも『十人委員会』とは、雨の日に運動部が暇つぶしに始めた集まりに過ぎなかった。なんとなくクエストに参加したり、部活内の連絡のやり取りをしたり。最初は、戦闘系ギルドですらなかった。
だが、ある時。
オンラインゲームの《カナル・グランデ》に、ひとつのシステムが登場する。
それが『継承システム』。
自身のキャラクターの消滅を条件に、能力やスキルなどを他人に受け渡すシステムだ。ボーナスポイントもつくので、『継承』を繰り返せばキャラクターはどんどん強くなっていく。
だが、せっかく育てたキャラクターが消えてしまうので、積極的に活用するプレイヤーは少なかった。
部活の暇つぶしにしか使っていなかったキャラクター。それらは部員の卒業と同時に不要となり、どうせならと『継承システム』を使って、次期部長へとキャラクターの能力を引き継がせていった。
そして、10年。
気がついたら『十人委員会』は度重なる『継承』によって、最強と呼ばれる戦闘系ギルドになっていた。先代の部長・部員たちが培ってきた数値的な能力。数々のスキルや魔法。それらを、今の部長たちが引き継いでいるのだ。
陸上部の幽霊部長。
メンバーから『ミク』と呼ばれている御櫛笥さんも、その一人だった。
「おい、ミク。いちいち棘のあることを言うな。そんなにツンツンしてたら、ユキに嫌われるぞ」
「ばっ!? なんで、そこにユキが出てくるのよ!」
御櫛笥さんが顔を赤くさせながら、ジンに飛び掛って首を締める。
「ぐっ、ふぅ! やめろ!」
「アンタがバカみたいなことを言うからでしょ! 体育会系を舐めんな!」
「黙れ、ツンデレが! お前がわかりやす過ぎるんだよ!」
「ツンデレじゃないっての!」
御櫛笥さんは、ちらちらとボクのほうを見ては、恥ずかしそうに顔を赤くさせる。
「言っておくけど、ジンが言ってることは適当だから! ユキも信じたら承知しないわよ!」
そんな彼女の必死な反論に、ボクはいつものように微笑む。
「ははっ、大丈夫だって。ジンの言うことなんか、真に受けたりしないよ」
「え? …あ、そうなんだけど。…えーと、そうじゃなくて。…う、うぅ〜」
ボクが答えると、御櫛笥さんは悩むように頭を抱える。そして、恥ずかしそうに大声で叫ぶのだった。
「ゆ、ユキの馬鹿!!」
着崩した制服に、明るい茶色で染めた髪。
そんな彼女の顔は、夕陽のように真っ赤だった…
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「ほらほらっ! そこの看守、サボってんじゃないわよ!」
薄暗い廊下から、ツンツンした女の子の声が響いている。
「看守長はどこに逃げたの!? 組織のトップが率先して動かないと、下の者はついてこないでしょ! そんなの高校の部活だってわかるわよ!」
刑務所の中は、男たちの悲鳴で溢れかえっていた。
「だ、誰か、あの人を止めてくれ!」
「やめてくれ、姉御! また牢獄が壊れちまう! もう鉄格子を修理する予算すらないんだ!」
懇願するように頭を下げる看守たち。
そんな彼らに、牢屋の中から厳しい声が響く。
「黙りなさい! そもそもトイレ掃除くらい自分達でしなさいよっ! なんで、アタシたちがそこまでやらなくちゃいけないのよ!」




