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第29話「さぁ、仲間を探そう!」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 翌日。

 ボクはアーニャの部屋で目を覚ました。だけど、体を動かそうにもベッドから起き上がることはできなかった。


 なぜなら―


「…う~ん。…ユキ、大好きだよぉ~」


 アーニャに抱きつかれていた。

 昨日の夜、ボクが床で寝ると言ったら、アーニャから猛反発を受けて。結局、小さな一人用のベッドに、二人で寝ることになった。…のだが。


「…すぅ、すぅ」


 アーニャが起きる様子はない。

 それにも関わらず、無意識に足を絡めてきたり、お腹や脇腹を撫でてくるのだから、熟睡できるわけがない。


「あ、やんっ!」


 不意に、アーニャの足が股の間に入り込んできた。

 太ももやお尻を撫でられて、甲高い声を我慢できない。敏感な場所を何度も刺激されて、耐えられず声をもらしてしまう。まるで、女の子みたいな声に、かぁ〜と顔が赤くなっていく。


「…はぁ、はぁ。…も、もう、どうしたらいいの」


 静かに寝息を立てているアーニャを見ながら、熱くなった顔で呟く。その時の鏡に映った自分の顔は、知らないうちに女の顔になっていた。


「やっ、だめっ!?」


 寝ぼけている(いや、本当は起きているのかも)アーニャは止まらない。背後からTシャツを中に手を入れて、優しく揉まれていく。喘ぎ声を堪えながら、愛撫され続けて。太陽が昇る頃には、ぐったりと疲れ切っていた。


「はぁはぁ、…もう、ら、らめ〜!」


 ボクの意識が途絶えて、目が覚めた頃は。

 太陽がちょうど真上にあった。


 眩しさに思わず目を細めながら、手のひらを空へと伸ばす。外を出歩いていると、柔らかい日差しが、ほのかに手を温めていく気がした。


「何しているの、ユキ?」


 アーニャがボクに声をかける。

 猫耳のフードがついた服装で、ボクと初めて出会ったときと同じ格好だった。


「いや。この世界の空にも太陽があるなって、そう思っただけだよ」


「何言っているの? 当たり前じゃない」


「ははは、そうだね」


 ボクの服装は集落に来た時と同じ、黒色のブラウスに黒のプリーツスカート。膝が隠れるほどのニーソックスを穿いている。武装としては、腰に挟んである銀色の銃『ヨルムンガルド』と、スカートの中に隠している暗器銃の『白虎』だ。


「それで、これからどうするの?」


 アーニャの質問にボクは答えた。


「そうだね。とりあえず、ジンと同じように仲間を捜そうと思う。ボクの仲間は目立つから、すぐに見つかると思うんだ」


「そんな適当なことで見つかるの? だいたい、目立つって。どれくらいなのよ?」


「うーん、そうだね…」


 ボクは唇に人差し指を当てながら考える。


「10万体のゴブリン軍団を殲滅したり、世界を崩壊させるドラゴンを撃退したり。そんな連中だよ」


「あははっ、それは言い過ぎだって」


 アーニャがお腹を抱えて笑いだす。

 ボクは、そんな彼女をじっと見ていた。


「…本当なの?」


「うん。わりと本当だよ」


 ボクは淡々と答える。


「でも、もしそれが本当だったら。…ユキの仲間たちって、1人1人が軍隊レベルだってことだよ。ううん、そんなもんじゃない。ヴィクトリア王国の連合艦隊と同じくらいの力があるってことだよ。そんなことあるわけ…」


「…」


 ボクは黙ってアーニャを見る。


「…マジで?」


「だから、マジだって。そんな連中ばっかりだから、町で見かけたら、絶対に騒ぎになっているはずなんだよ」


 ボクはアーニャに説明しながら、仲間の面々を思い浮かべていく。一番、騒ぎを起こしそうなのは『彼女』だろうな。普段は気さくな性格だけど、とにかく好戦的だから。


 クラスの男子を、一発で殴り倒してしまった時のことを思い出す。


 その時だった。

 突然、女性の怒鳴り声が島中に響き渡った。


『いいかげんにしなさいっ! なにをフザけたことを言ってるのっ!』


 とんでもない声の大きさに、周囲にいた海鳥は一斉に逃げ出して、子供たちは恐怖に泣き出してしまった。


「な、なに?」


 ボクは慌てて声のしたほうを見た。

 そこには高い塀に囲まれた、レンガ造りの建物があった。


 それは『刑務所』だった。


 ゲームだったころは、マナー違反をしたときなどに強制転送される、いわば牢獄のようなもの。ペナルティとして、一時的な牢獄生活を送るか、莫大な賄賂を看守に渡さないと町に戻れない。


 ちなみに、ゲームでは関係ないのだが、ヴィクトリアの宮殿にも監獄があり、死刑囚を収容していたという設定があった。クエストなどで賞金首の盗賊を捕まえたときに、文章で出てくる程度で、実際には見たことがない。


「あー、あの子ね。最近捕まった囚人よ」


 アーニャは呆れたような表情をしている。


「数日前に、街角で住人に暴力行為をしたとかで、ここに連れてこられたのよ。なんでも女の子1人で、酔っ払いを十数人くらい病院送りにしたとかで」


「…女の子?」


 ボクが聞くと、アーニャが頷く。


「うん、そうなの。なんか変わった魔法を使うらしくてね。人の形をした紙切れから、奇妙な人形を呼び出すとか」


「…人形を呼び出す紙。…『人形魔法』だね」


 ボクが呟く。

 そういえば、『彼女』も人形魔法の使い手だったな。アイテム消費型の魔法使いで、あまり人気はなかったけど。彼女は、じぶんの戦闘スタイルに合わせて使い分けていたなぁ。


 そんなこと考えていると、再びあの声が聞こえてきた。


『ほらっ、ボサっとしないっ! 泣いている暇があったら、手を動かすのよっ! 何だったら、アタシが直接教えてやろうか!?』


 ぎゃー、ぎゃー、と悲鳴のような声が、塀の向こうから聞こえてくる。


「…ははっ」


 ボクは思わず笑ってしまった。

 『人形魔法』を使う女の子で、牢屋に入ってもあんなに元気な女の子を、ボクは一人しか知らない。


「ねぇ、アーニャ」


「なに?」


「あの刑務所って、中に入れるの?」


 ボクが言うと、アーニャはおかしそうに首を傾げる。きっと、ボクが嬉しそうに笑っていたからだろう。


 『彼女』が、あそこにいる…

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