第2話「たった十人だけの、最強のギルド」
「うおらぁ! 寝てやがれっ!」
悲鳴のような雄叫びを上げて倒れるベヒーモス。
その近くには、銀色のエフェクトを纏った獣人が立っていた。全身が銀色の毛で覆われた狼男。屈強な体に、凶暴そうな爪、口からは大きな牙が見え隠れしている。
カーソルには『ジン:銀狼族』を表示されている。
黒髪の少女が銃を構えたまま、狼男の隣に立つ。そのまま距離をとるために、後ろに下がっていく。
その時だった。
少女と狼男のそばを通って、1人の巨体な人影がベヒーモスに駆けていった。赤い皮膚に、鱗のような肌。人外の外見に、鬼のような二本の角。背の高さは少女の倍ほどあり、手にはそれ以上の大剣が握られている。近接戦闘を得意とするオーガ族であった。
カーソルには『ゲンジ:狂戦士』と表示されている。
【ゲンジ】
到着した。これより『バーサーカーソウル』を発動させる。皆、近寄らないでくれ
【ジン】
おいおい、本気かよ!
【ミク】
こんな密集した場所で、そんなもの使わないでよ!
【セイシロウ】
皆さん、退避してください。巻き込まれますよ
【ジン】
言われなくてもわかってるって!
ベヒーモスの周囲に隠れていた数名のプレイヤーが、逃げるように距離をとる。
それと同時に、オーガ族の男が獣のような雄叫びを上げる。狂気を孕んだかのような目つきとなり、赤と黒が合わさったエフェクトに身を纏わせる。
狂戦士の固有スキル『バーサーカーソウル』。自身のステータスを格段に上昇させるかわりに、目の前の敵を倒すまで他の全ての行動がキャンセルされてしまう。
「ウオォォォォォ!」
叫んでいるのが、モンスターなのかオーガ族なのかわからない。
凄まじい咆哮が辺りに響く。
狂戦士は叫び声を上げながら、目の前のモンスターに何度も何度も巨大な剣を振り下ろしていく。
理性をなくした狂戦士は、目に映る全てを壊すまで止まらない。
……一方的な戦況だった。
凶悪なモンスターと名高いベヒーモスを、いとも簡単に討伐してしまう。少数精鋭、10人だけのギルド。
無数の古傷を背負っているオーガ族。
『ギルドNo.3』不撓不屈の狂戦士、ゲンジ。
銀色の狼男。
『ギルドNo.4』希少種族である銀狼族、ジン。
白のワンピースを着た幼い妖狐。
『ギルドNo.5』大召喚師、コトリ。
赤い髪をした和服の少女。
『ギルドNo.6』一騎当千の人形使い、ミク。
重厚な鎧の騎士。
『ギルドNo.7』盾無しの守護騎士、セイシロウ。
妖しく微笑むエルフの神官。
『ギルドNo.8』唯一の回復職、アリス。
氷のように無表情の魔法使い。
『ギルドNo.9』氷の魔導砲台、ウスイ。
深緑のバンダナをした賭博師の男。
『ギルドNo.10』絶頂を続ける幸運の星、カイジ。
第二次世界大戦の軍服を着た女性。
『ギルドNo.1』破壊神のギルドマスター、生徒会長。
そして、長い黒髪と銀色の銃を構えた美少女。
それが、ボク。『ギルドNo.2』魔法銃士の銃舞姫、ユキだ。
全員が高レベルの証でもある稀少なアイテムで装備を固めている。そこからも、ここに集まった人間が、数多の死線を掻い潜ってきた猛者であることを知らしめていた。
「グ、グォォ…」
数分後、ベヒーモスの雄叫びが途絶えた。
オーガ族の男が巨大な剣を片手に歩いてくる。表示されているHPはわずかも減っておらず、ほとんど無傷であった。
この10人が、オンラインRPG 《カナル・グランデ》に生きる伝説として呼ばれている最強のギルドであった。いくつもの超難度のクエストを制覇してきて、ありとあらゆる名声を手にしてきた。クリアできないクエストはないと賞賛を浴び、倒せないボスはいないと囁かれる。どんなに理不尽な状況であっても、最後に立っているのは、必ず彼らだった。
世界最強の、たった10人だけのギルド。
……『十人委員会』であった。




