表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
281/358

第42話「話をしよう。……この世界の秘密について」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「会長はどこにいったのだ?」


「散歩だそうです。先ほどユキ君、……ではなくて、優奈さんと出ていくのを見かけましたよ」


 宮殿の医務室でゲンジと誠士郎が言葉を交わしている。

 そこに揃っていたのは、凛を除いた『十人委員会』のメンバー全員だった。ミク、コトリ、有栖、碓氷涼太。合計6人の人間が医務室に集まって、コトリのベッドを囲んでいる。


「しかし、小鳥遊たかなしよ。それだけ重傷なのだから、アーニャ殿の回復魔法を頼ればいいものを」


 自身も頭に包帯を巻いているゲンジが、コトリに言った。

 だが、彼女は力いっぱいに首を横に振る。


「絶対に嫌だ。あの女の世話にだけはなりたくない」


「しかし、そのままではいろいろと不便だろう」


「構わない。ジンと暮らす前は、1人で生活していたんだし。片手が動かないくらい、何の問題もない」


「ははっ。部屋中、散らかり放題だったけどね」


 隣で聞いていたミクが茶々をいれる。

 すると、コトリはいじけるように唇を尖らせた。


「いじわる。ミクなんて嫌い」


「えー、嫌いになっちゃったの?」


「嘘よ。……友達を、嫌いになるわけがないじゃない」


 コトリは恥ずかしそうに視線を外す。

 彼女の尻尾は落ち着かないように、右へ左へと揺れていた。『友達』という言葉に、まだ慣れていないようだった。


「はいはい。美しい友情ですこと」


 呆れたような声を出したのは、有栖だった。

 ピンクのような撫子色の髪の幼女は、いつもと同じように碓氷涼太の隣に立っている。妖精でもイメージしているのか、フリルのたくさんついた洋服に、飾りものの羽がつけられていた。


「ですが、あなたの行為は許されるものではありません。ゲンジ君や誠士郎君に危害を加えて。あまつさえ、ユキ姉さまに心労を与えたことは万死に値します。ちゃんと反省しなければ、仲間と認めることはできません」


 ちょっと舌足らずな声で、コトリに言い放つ。

 少し生意気な態度で威張る幼女の姿は、それはそれで可愛かった。


 ……だが。


「黙れ、ロリババア」


 コトリの一言が、部屋の空気を凍らせた。


「……ろ、ろりば―」


 有栖の顔に、深い皺が刻まれる。

 それでも先輩として精一杯の我慢をしているのだろう。肩を震わせながら、なんとか丁寧な言葉を絞り出した。


「……そ、その言い方はないでしょう。わたくしの姿は、どこから見ても幼い女の子ですわ。それに、実際の年齢もあなたと1つしか変わらない―」


「うるさい、ロリババア。静かにして。あなたは口を閉じていることもできないの。そんな知能すらないわけ。頭からっぽ? アルツハイマー? それじゃあロリババアじゃなくて、クソババアね。ごめんなさい、あなたの脳みそがそこまで萎縮していたなんて気がつかなかったわ。わたしが悪かった。気を悪くしたのなら謝るわ、このロリババア」


 容赦のない言葉でたたみかける。

 最初こそは耐えていた有栖だったが、少しずつ目元がうるうると涙を浮かべる。そして、最後には。大声で泣きながら隣の涼太に抱き着いた。


「……び、びぇーん! りょうた! あの女、こわいっ!」


「……」


 大声で泣いている幼女を抱きかかえながら、涼太は有栖の頭を黙って撫でる。

 その様子を見て、ミクが呆れたように言った。


「……コトリ、言い過ぎ。謝りなさいよ」


「そう」


 コトリはそっけなく答えると、泣きじゃくる有栖に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい。言い過ぎたわ。つい頭に来て、心に思っていたことを、嘘偽りもなく口にしてしまったの。本当にごめんなさいね。ロリババア」


「ひっ!」


 その謝る姿勢が皆無の言葉に、有栖は体を震わせる。その顔には、もう恐怖しか映っていなかった。


「ひ、ひっく! びぇっ!」


「……」


 そんな空気を察してか、涼太は有栖を抱きかかえたまま医務室から出ていった。遠くのほうから、彼女の泣く声が聞こえてくる。


「……コトリ。あんた、わざと言っているでしょ?」


「わかった?」


「えぇ。あんたが予想以上に性格が悪いことは、よくわかったよ」


 はぁ、とミクが溜息をつく。


「ったく、ジンがいなくなって不安だとか、よくそんなこと言えるよね。本当は、全然気になってないんじゃないの?」


「そんなことはない。わたしは彼を愛していたから。ジンがいなくなって、どうやって生きていけばいいのか、本当にわからないの」


 胸元に下げている指輪を手にとる。

 そして、愛おしそうに自分の唇を当てた。その姿は、大人の女性のような色香を漂わせている。


「それにしては冷静じゃない? ジンがいないってことは、もう死んでいるのかもしれないのよ?」


 大切な人のことを静かに想っている彼女に、ミクは率直に言った。ジンがいなくなって、もうすぐ一週間になる。さすがに、ジンがどこかで生きているという楽観的な考えはなくなっていた。


 この話をコトリにするのは少し酷かもしれない、とミクは思う。彼の死を目の当たりにして、コトリは冷静でいられるのだろうか。

 だが、そんなミクの予想とはまったく異なる反応を見せた。


「大丈夫よ。だって、ジンは死んでなんかいないもの」


「え?」


「なんだと?」


 それまで黙っていた他のメンバーたちも、声をあげて驚いた。


「ジンが生きている? それってどういうこと? だって、もう一週間も音沙汰がないんだよ」


「うん、そうね」


 コトリは小さく頷きながら、掌にのせた指輪を見つめる。目を細めて、辛い記憶を思い出すように、彼女はゆっくりと口を開いた。


「皆に、その話をしようと思う。わたしとジンが最後に交わした話を。誰もが突き止められなかった、……この世界の秘密についてー」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 死んでないだと
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ