第20話「…彼のいない世界なんて、壊してやる」
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東の空から、太陽が昇る。
この景色をどれだけ見てきただろうか。
がらんとした部屋の中で、わたしは1人で考える。
家具が少なく、モノトーンで統一されたシンプルな内装。わたし1人で暮らしていたら、こんなに整理整頓が行き届かないだろう。
いつも、彼がいたから。
わたしの傍には彼がいて、彼の傍にはわたしがいて。
それが当たり前になっていた。
それが心地よかった。
…いつから?
いつから、そんな感情が生まれたのだろうか。
初めて出会った駅のホームで?
彼と会話した喫茶店で?
2年生になって、彼と同じクラスになったから?
こんな糞みたいな異世界でも、わたしのことを彼が見つけてくれたから?
…わからない。
…わからないけど。
目に入った服を適当に着ていく。夏物のワンピースに、彼の大きすぎる上着を羽織って。その上から水色のマフラーを巻く。
そして、最後に。
それを首にかけた。
小さな指輪に細い糸を通して、ネックレスにしてみた。銀色のリングに、小さな宝石があしらわれている。
その宝石がダイアモンドなのか、本当はわからない。
それでも、わたしは彼に望んだ。
壊したくても、壊せない。わたしと彼の関係性を。
強い結びつきを。
運命の赤い糸のような、切れない結びを。
いつまでも一緒にいられるように。
「…」
だけど、今は1人。
1人になってしまった。
ジンのいない世界で、1人になってしまった。
…だから。
…壊す。
…彼のいない世界なんて、壊してやる。
…彼がいないのに、笑っている人間が許せない。幸せな人間が許せない。前向きになっている人間が許せない。なにより、彼がいなくなった原因を作った『あの女』を許せない。
…捕まえて、切り刻んで、焼き尽くして、擦り潰して。生きたまま眼球を潰して、声が出ないように喉を焼いて、内臓をこの手で引き摺りだして、足の先からゆっくりと壊してやる。壊してやる。壊してやる―
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「おい、陣ノ内はどうした?」
十人委員会の会議室で、野太い男の声が響いた。
円卓についているオーガ族の大男。ゲンジであった。
「快司に続いて、陣ノ内まで欠席か? これは少し弛んでないか?」
「そうですね。…でも、陣ノ内君が連絡もなく欠席とは珍しいですね」
ゲンジの向かいに座っている誠士郎が答えた。
すると、空席を挟んで隣に座っているミクが口を開いた。
「寝坊しているだけじゃない? コトリもまだ来ていないんだし」
「そうかもしれませんが、とっくに定時を過ぎているんですよ。ユキ君は体調不良かもしれませんが、遅刻するなら連絡くらいほしいものです」
「まぁ、そんなに怒るなよ。どうせ、そのうち顔を出すさ」
ミクが楽観したように答えた。
十人委員会の円卓についているのは6人だった。
ゲンジ、誠士郎、ミク。
あとは有栖と碓氷涼太。そして、天羽凛である。メンバー内で凛だけが、ジンのいないことで不安な表情を浮かべていた。
「ところで、御櫛笥さん。ユキ君の体調はどうですか?」
「あぁ、だいぶ良くなったみたい。まだ腹痛とか体のダルさはあるみたいだけど、今日くらいには動けるようになるんじゃないかな?」
誠士郎の問いに、ミクが答える。
その時だった。
会議室の扉が少しだけ乱暴に開かれた。
バンッ、と音を立てた扉の向こうには、黒髪の少女が立っている。
十人委員会の『No.2』である、ユキであった。
「はぁ、はぁ。…ねぇ、皆!」
彼女は荒く肩で息をしながら、ドタドタと会議室に入ってくるなり問いかけた。
「じ、ジンの姿を見なかった!?」




