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第16話「世界の支配者(ゲームマスター)の本音」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「…うしっ、片付いたか」


 俺は広場の惨状を見渡していた。

 焦げた異臭が鼻につく。

 広場の中心は、火災でもあったかのように黒焦げになっている。石畳がめくれ、わずかに陥没しているのが見てわかる。


 そして、その周囲には。

 気絶した住民たちが山のようになっていた。皆、笑顔のまま表情が固まっていて、痙攣しているように指先がピクピクと震えている。


「さすがに、あの一撃には耐えられないだろうよ。目の前に落雷があったのと同じようなものだからな」


 俺は呟きながら、先ほどのことを思い出す。

 銀狼族の固有スキル『銀狼モード』。そこから派生する、広範囲制圧の一撃。全身に銀狼モードで発生する電流を蓄えて、空中から落下したときに一気に放出させる。自分自身が稲妻となるのだ。


 この技を、俺は『雷』と呼んでいる。


「さぁ、そろそろ出てきてもいいんじゃないか?」


 俺は誰もいない公園に問いかけた。

 黒い人影や、狂った住民。

 こんな奴らを操れる人物など、1人しかいない。


「出て来いよ、世界の支配者ゲームマスター。…いや、アーニャ姫さんよ」


 夜の闇に、その名前が木霊のように響いた。

 冷たい風が吹き、地面の落ち葉をさらう。

 カサカサと音を立てて、どこかへと飛ばされていく。

 無言の静寂が、広場を包んでいた。


 …だが、それも長くは続かなかった。


「こんばんわ」


 少女の声が、広場にいる俺へと届く。

 その慣れ親しんだ声のするほうへ、視線を向けた。


「よう、姫さん。久しぶりだな」


 にやり、と笑みを浮かべる。


「最近は忙しそうだったじゃねぇか。王女のご公務ってやつか? それとも世界の支配者ゲームマスターとして、やることがあったのかな?」


「…そうね。その両方よ」


 少女は不機嫌そうに答えてから、薄暗い路地から姿を見せた。

 頭から黒いローブを羽織っていて、ここからだと顔は見えない。だが、その人物が彼女であることは疑いようがなかった。


 彼女自身も似たようなことを思ったのか、おもむろに顔を隠しているフードを開けた。

 蜂蜜色の髪が、夜風に揺れている。

 黒いローブの少女、…アーニャは穏やかな口調で問いかけた。


「…私が世界の支配者ゲームマスターって、誰かに聞いたの?」


「ははっ、姫さんだって分かっているだろう。快司から教えてもらったんだよ」


「そう。でも、あの日記は私が完全に消去した。あの男と一緒にね。それなのに、なんであなたは彼の言うことを信じられるの?」


「ふっ、詰めが甘いな。快司は日記の最後のページを破って、俺に託したんだ。姫さんが世界の支配者ゲームマスターだというメッセージを書いてな」


「…そっか。やっぱり、ちゃんと中身を確認しておくんだったなぁ」


 アーニャは落胆するように溜息をつく。


「そうすれば、あなたのことも消さずに済んだのに」


 ぞくり、と背筋が凍るような口調だった。

 まるで人を殺すことなど、なんとも思っていないように感じた。

 だが俺は、あえて明るい口調で声をかける。


「なるほど。ってことは、快司をやったのは姫さんか」


「そうよ。あの男はこの世界の真実を暴こうとした。…ううん、それだけじゃない。あの男は危険過ぎた。この世界にいてもいいような人間じゃない。正体もわからなかった。ねぇ、ジン。あの男はいったい何者だったの?」


「あ? 何のことを言っているんだ?」


 俺は意味がわからず、アーニャの問いに首を傾げる。


「…そう。あなたも知らないのね。きっと、皆も知らないんだ。あんな嘘つきの男が、仲間だなんて―」


 アーニャは寂しそうに呟いた。

 そして、わずかに後ろを振り向くと、誰かを呼ぶように声をかけた。しばらくすると、1人の宮殿騎士が彼女の後ろに立った。その表情は死人のように無表情であった。


「…誰だ、そいつは?」


「私の護衛よ。彼の名前はカサノヴァ。ヴィクトリア王家の仇を討ち滅ぼす騎士よ」


「王家だぁ? はっ、笑わせる! 見せかけだけのハリボテの国に、王家も王女もあったもんじゃねぇだろう?」


 俺は呆れ果てて、彼女のことを鼻で笑ってやる。


「おい、姫さん。あんたは本当はどう思っているんだ? こんな嘘っぱちな世界で王女様を気取って、何にも感じねぇのかよ。…俺たちは知っている。この世界が今も少しずつ崩壊していることを。それなのにあんたは何にも言わず、目の前のことだけしか考えていない。邪魔者の快司を殺して、今度は俺を襲って。…次は誰だ? 天羽会長か? 会長のことも殺すのか?」


「っう!」


 俺の言葉に、アーニャの表情が険しくなる。怒りや苛立ちを必死に押し込めているのが、見てわかった。


「…わ、私だって。できれば皆と仲良く暮らしたいんだよ!」


 彼女は両手を強く握りしめながら、こちらを睨みつける。


「でも! でもね! あの男が全てをぶち壊した。私のことを騙して、誰も入れないはずの宮殿の隠し部屋に入って、最後には私の正体に気がついた。全部、あの男が悪いんじゃない!」

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