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第4話「仲間が1人やられた。それなのに、こんな会議室で無駄な話をしているほど、お前たちは薄情者なのか!?」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 ユキが出ていった会議室では、まだ十人委員会のメンバーが円卓を囲んでいた。

 先ほどまでとは違い、深刻な空気に包まれている。


「…で、どういうことだよ。快司が見つからないって」


 ミクが口を開いた。


「その通りの意味だよ。数日前から、快司の姿が見当たらないんだ」


 その正面にいるジンが静かに答える。銀色の鬣を持つ銀郎族の男は真剣な目をしていた。


「あいつの部屋にも行ってみたが返事もない。他にも、快司の行きそうな場所に顔を出してみたが、まるで手がかりがない」


「どうせ、カジノにでも行っているんじゃないの?」


「それは一番最初に探したさ」


 ジンの返事に、ミクが深いため息をついた。


「じゃあ、なにか? あいつが何者かに消されたとでも言うのか? それはちょっと考えにくいんじゃない?」


 ミクは頬杖をつきながら言った。


「あいつの強さを知っているだろう? 固有スキル『絶頂を続ける幸運の星』が、そう簡単にやられるとは思えないんだけど。あたしたちの中でも最強クラスの瞬間火力を持っているだぞ?」


 その口調は、意外にも柔らかい。

 ミクにしてみたら、ジンがこんなことを言うのが不思議であった。


「…ミク、お前の言う通りだ。…だけどな」


 ジンは慎重に口を開く。


「…もし、あの快司すら倒せる存在が、この世界にいたとしたら」


「あ? どういう意味?」


 ミクが驚いたように目を丸くさせる。

 無理もない。ミクは、あの『世界の支配者(ゲームマスター)』の部屋にいた、黒い影を見ていないのだ。あの突然の襲撃に関わった者なら、誰でも同じことを感じたはずだ。


 あれは、危険な存在だと。


「あー、そうだな」


 ジンはどのように説明したらいいのか、考えながら円卓のメンバーを見ていく。少し離れた場所に座っているコトリは無表情のままだ。有栖は不安そうな顔をしながら、隣に座っている碓氷の服をぎゅっと握っている。そして、天羽会長はいつものように―


「…ん?」


 ジンは天羽会長に視線を向けたまま、怪訝な表情を浮かべる。


「おい、会長。どうかしたのか?」


「…」


 返事はない。会長こと、天羽凛は円卓に伏せたまま、自分の肩を強く抱いていた。それはまるで、震える体を押さえつけているようだった。


「…ない」


「え? 何か言ったか?」


 ジンが凛に問いかける。


「…かえって、来ない。なんで。もしかして、…快司さんにも、捨てられた。優奈に置いていかれて、快司さんにも捨てられて。…私は、もう、…独りぼっち」


 ぶつぶつと小さな声で呟いているようだったが、何を言っているのか聞き取れない。


「おい、会長。…天羽会長!」


「…ひっ!」


 びくっ、と肩をふるわせながら、凛がジンのほうを向く。


「どうしたんだ? もしかして、ユキみたいに体調でも悪いのか?」


「…」


 凛は黙って、首を横に振る。


「はぁ、しっかりしてくれよ。快司の姿が見えないんだ。会長は何か知らないか?」


「快司さー」


 そこまで言いかけて、凛は首を振る。


「…快司のことなど、知らない」


「そうだよなぁ。俺も数日前に会ったきりなんだよ」


「…数日前?」


 ぴくり、と凛が反応する。


「…それは具体的に、何日前のことだ?」


「あー、いつだったかな。たしか4日前だったな」


「…4日前?」


 凛の瞳に、わずか光が灯る。


「…それからは、誰も見ていないのか?」


「あぁ。あいつの部屋にも行ってみたが、誰もいない。近所の人に聞いても、知らないと言っていたな」


「…快司が、いない。4日前から」


 凛は呟きながら、この数日のことを振り返る。

 快司が世話に来なくなって、空腹で泣きそうになりながら外に出てから、ちょうど3日目。

 つまり、4日前ということは。快司が凛の世話をしにきた、最後の日であった。


「なぁ、会長はどう思う? 俺は、何者かが快司のことを襲ったとしか―」


「っ!」


 凛の全身に衝撃が走る。

 4日前に、快司は何者かに襲われた。

 …それは、つまり。


「…私は、捨てられたわけじゃない?」


 凛が呟く。

 その時、頭によぎったのは、快司の言葉だった。


 胸に、響く。

 届く。

 彼の言っていたことが、体中に響き渡る。


 …心に、火を灯せと。


「…やろ」


「あ? さっきから、1人で何を言って―」


 ジンが怪訝な表情を浮かべる、その瞬間。


「快司の、馬鹿野郎ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 天羽凛の絶叫が、会議室に響いた。


「うおっ!」


「な、なんだ!」


 ジンとミクが驚いて声を漏らすが、そんなことに構うことなく、天羽凛の叫び声は続く。


「馬鹿だ! 快司は大馬鹿野郎だ! この私に何も死んでしまうなど、言語道断だ! その罪は万死に値するぞ!」


「ちょ、ちょっと、会長。別に快司が死んだと決まったわけじゃ―」


「何を温いことを言っているんだ、御櫛笥みくしげ青葉あおばっ!」


 凛はミクの声を遮って、彼女を本名で名指しする。


「いいか! 『十人委員会』のギルドメンバーが全員そろったんだ! このタイミングで自分から姿を消すことに、何の意味がある!」


 それに、と凛は続けた。


「快司は確かにお調子者だがな。奴が自分勝手に単独行動に出たことなど、一度もないんだぞ! 常に仲間と連絡を取り合いながら陰で行動する。それが岩崎快司という人間だ。そんな奴が、連絡もなく姿が見えなくなった。これを異常事態と見ないで、なんとする!」


 だんっ、と凛は円卓に足を乗せた。

 そのまま鋭い目つきでメンバーたちを見渡していく。


「仲間が1人やられた。それなのに、こんな会議室で無駄な話をしているほど、お前たちは薄情者なのか!?」


 凛の言葉に、ミクが何か言い返そうとするが。

 何も言えず口を閉じた。


「いいか、これは売られた喧嘩だ。どこの馬の骨だが知らんが、我々『十人委員会』に喧嘩を吹っかけてきた奴がいる。そして、快司が姿を消した。お前たちは我慢できるのか? 仲間を1人やられて、黙っていられるのか? 私はできない。誰に喧嘩を売っているのか、血をもって教えてやる!」


 それだけ言い放つと、凛は円卓から降りた。

 そして、さっきまで座っていた木製のイスを手に取ると、会議室の隅のほうへ投げつけた。


「おい! 源次郎! 誠士郎! そんな場所でいつまで寝ているつもりだ!」


「うぉっ!」


「ひぃぃ!」


 部屋の隅で、まるで燃えないゴミのように転がっていた2人は、恐怖に震えながら立ち上がる。グシャッと音を立てて、木製のイスは粉々に砕けた。


「2人とも、私に付いてこい! これから軽食店バールで作戦会議だ!」


「は、はい!」


「う、うむ、了解した。…だが、なぜ軽食店なのだ?」


「決まっているだろう! 腹が減ったからだ! この数日、食事らしいものは食っていなくてな!」


 あっはっは、と高笑いをしながら、凛は2人の後輩に肩を回す。

 そして、そのまま会議室を出ていってしまった。


「…なんだったんだ?」


「…さぁ。俺に訊かれてもな」


 ミクとジンが首を傾げる。


「そういえばさ。今日の会長、なんか様子が変じゃなかった?」


「…そうか? 天羽会長は、いつもあんな感じだろう?」


 ミクの問いに、ジンが肩をすくめる。

 ジンはこの前の宮殿探索で、凛の心の弱さを知っていたが、あえて誰かに話すことでもないと考えていた。


 少なくとも、この瞬間。

『十人委員会』のギルドマスターである天羽凛は、完全復活していた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何も死んでしまう→何か言葉が抜けているのですかね。 [一言] 4日ほとんど食べていなかった会長、カイジの行方不明を聞き、復活。復活なのかそれともから元気なのか。
[一言] 会長復活
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