第31話「ジン、天羽会長、快児、碓氷、有栖。…『宮殿の隠し部屋』を探しに」
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数日後。
ヴィクトリア宮殿の玄関に、天羽凛たちの姿があった。
「さて。皆、そろったな」
凛が集まったメンバーに声をかけると、2人の男が返事をする。
「ちぃーす。岩崎快司、ここにいるッスよ!」
「…朝から喧しいな」
早朝から元気すぎる挨拶をする岩崎快司を、ジンが迷惑そうな目で見ている。
ここに、ユキたちの姿はない。
彼らは昨日から、ヴィクトリア本島から離れた温泉の沸く島に行っている。岩崎快司が引き当てた商店街の福引だ。行く先が離島であることも、快司のスキル『絶頂を続ける幸運の星』で福引を当てることも、全てジンの計算の上であった。
「…で、アリーシア姫もここにはいないんだな?」
「そうッスね。オレっちとジン先輩で確認済みッス」
確かめるように問う凛に、快司が親指を立てる。
「あぁ。ユキも姫さんも、明日にならないと帰ってこない。…それは、いいんだが」
ジンが銀色の鬣をかきながら、ため息まじりに肩を落とす。
「…なんでコイツらがいるんだ?」
尖った爪の指す先には。
撫子色の髪の幼女と、魔法使いの少年が立っていた。
「コイツ、とは聞き捨てなりませんわね。私たちがいると迷惑とでも?」
「…」
腰に手を当てて頬を膨らませる有栖と、黙って立っている碓氷。
その2人を見ながら、ジンが不服そうに呟く。ユキたちと別行動をしていることには理由がある。このゲームのような異世界で、最も怪しい存在。この国の王女であるアーニャについて調べるためだ。
アーニャは、自分の都合の良いように事象を改変する。
そんな彼女の居場所である宮殿に、何かしら手がかりがあるのではないのか。この世界から脱出する方法を。『宮殿の隠し部屋』。そういったものがあると告げてきたのは、快児であった。
「こういうのは少数で動くのが基本だろう? なんで人数を増えてるんだよ」
「あー、その2人なら私が呼んだんだ」
凛はこともなげに言った。
「有栖はともかく、碓氷の洞察力は頼りになる。我々とは違った視点を持っているからな」
「…なんか、その言い方に腹が立ちますわね」
不機嫌そうに口を曲げる幼女
それに対し碓氷は、文庫本を片手に澄ました表情を浮かべている。
「…なんでもいいけど、さっさと行こうぜ。時間はそんなにねぇんだ」
「そうッスね。それじゃ、謎が渦巻くヴィクトリア宮殿へ。れっつごーっ!」
拳を上げて、宮殿の玄関を潜る岩崎。
その後ろをついていくジンと凛。
最後に、有栖と碓氷が宮殿へと足を踏み入れようとして―
「…」
「あれ? 涼太、どうしましたの?」
碓氷涼太が歩みを止めた。
そして、無言のまま辺りを見渡す。
左へ、右へ。
最後に目の前に広がっているアドリア海に視線を向けて、…その目を細めた。
「…」
「さぁ、早く行きましょう」
有栖に急かされるように、宮殿へと足を踏み込む。
その時、碓氷は小さな声で告げる。
「…誰かに見られている」
「えっ?」
慌てて振り向く有栖に、碓氷はゆっくりと首を振る。
「…近くにはいない。もっと遠くから。…まるで、別の世界から見られているような。…そんな感じだ」
「どうして、わかるのですか?」
自然と小声になる有栖。
そんな彼女に、碓氷は静かに語る。
「…違和感。君が他人の善悪に敏感なように、自分は他人からの視線に敏感だ。…人と関わるのが嫌いだからな」
最後に、これまで見たことのないようなほど真剣な眼差しとなる。
「…何が起こるかわからない。気をつけろ」
「…はい、わかりました」
事の重大さを計るように、有栖が重々しく頷く。
そして、不意に。碓氷が有栖の目を見つめた。
「…君のことは何があっても守る。約束しよう」
「えっ!? えっ、そんな、そんなこと、急に言われたら、…きゅっ!!」
碓氷の最後の言葉に、有栖は静かに卒倒していった。




