第20話「それは、とある放課後のこと」
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それは、とある放課後のこと。
ボクたちは教室から出ると、そのまま生徒会室へ向かっていた。理由は、月に一度の部長会議に出るため。ボクの友人たちは、部活の部長を務めていた。ジンは軽音楽部。御櫛笥さんは陸上部。コトリは文芸部に所属していた。
ボクたちが生徒会室に入ると、他の部長メンバーは全員そろっていた。長テーブルを横に並べただけの生徒会室に、肩を並べて座っている。
ボクを合わせて、9人がそこにいた。
「それでは定刻となりましたので、部長会議を始めたいと思います」
眼鏡をかけた理知的な男子が口を開いた。
生徒会副会長の小泉誠士郎。3年生だから、ボクたちの先輩ということになる。
「…待て。生徒会長がまだ来ていないようだが」
野太い声が、小泉副会長の声を遮った。
身長は190センチを越えている大柄な男子。体全体が筋肉でできているんじゃないかと思うほどに、ガッチリとした体格。
彼の名前は、郷田源次郎。
柔道部の部長だ。面倒見がよく、落ち着いている性格から、下級生から慕われている3年生だ。『ゲンジ先輩』と、ボクたちは呼んでいた。
「生徒会長は今日も休みです。待つだけ無駄ですから、始めても問題はないでしょう」
「ここのところ、学校に来ていないようだが。どこに行っているのだ?」
「さぁ? 八甲田の山奥か、恐山の麓でキャンプでしょう。どちらにせよ、考えるだけ無意味です。いつだって、我々の予想を軽く越えていますから」
小泉副会長はいたって真面目に話している。
本当のことだった。ボクたちの通っている学校の生徒会長は、本当にとんでもない人で、2年連続で留年しているとか、武者修行のため山に籠もるとか、そんなことをマジでしてしまう人だった。
「では、部長会議を始めます」
小泉副会長は資料を配ると、眼鏡をくいっと上げる。その日の議題は、部活の予算についてだった。
その後、会議は問題なく終わった。
それぞれの部長たちが帰っていく中、ボクは会議の議事録をまとめている。生徒会の書記なので、こればっかりは仕方ない。
だが、そんなボクを見て。
手伝ってくれる先輩がいた。
「あ、あの、すみません。書記なんか手伝わせてしまって」
「気にするな。自分で買って出たことだ」
大きな背中を丸めてノートに書きこんでいるゲンジ先輩を見ていると、なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
「それに柔道場に顔を出しても、後輩に直接指導ができるわけでもないしな」
右膝を撫でながら、彼は渋い顔をする。
ゲンジ先輩は膝を痛めていた。
部活中に捻挫をしてしまったらしく、今は部活を休んでいる。そこのことを聞いても、問題ない、と淡々と答えていた。
「お前は帰ってもいいぞ。後は、我がやっておこう」
「でも、なんだかゲンジ先輩に悪いですし…」
「無用な気遣いだ。それよりも、お前は自分を待っている友に気を遣え」
そう言われて、ゲンジ先輩の視線の先を見る。
そこには帰り支度を済ませた友人たち。ジンと御櫛笥さん。そしてコトリが、ボクを待っていた。
「友は大切にするべきだ」
「は、はい! ゲンジ先輩、ありがとうございます」
「うむ。気をつけて帰れよ」
ゲンジ先輩はそれだけ言うと、再びノートに顔を向けた。
やっぱり、このゲンジ先輩は良い人だなぁ、と心から尊敬する。ボクはなるべく手早く荷物をまとめると、ジンたちの元へと向かった。
信頼できる先輩であり、頼りになる仲間。
それが、ボクの中の『ゲンジ先輩』であった…
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