第23話「…え? 目的が変わってない?」
ジンの目が、ギラリと光る。
「魔王ナポレオンの軍勢が来るまで、あと7日。それに対して、会長が帰ってくるまでに10日は掛かる。この会長がいない3日間で、俺たちが全てを終わりにするんだ。それ以外に、…道はない!」
その力強い眼差しを受けて、ボクは思った。
…本気だ。
…ジンは本気で、会長が帰ってくるまでに終わらせるつもりだ。
「しかし、そんなに上手くいきますか?」
そんなジンの意見に、誠士郎先輩が異を唱える。
「いくら会長が帰ってくるまでに3日あっても、戦闘があったという痕跡までは消せないでしょう? 魔王軍の軍勢となると、ボクたち本気を出しても2日は掛かりますよ」
「あぁ、わかっている。だから問題は時間なんだ」
ジンが目を細める。
「魔王軍の討伐が速ければ速いほど、後片付けに時間を充てられる。…苦戦なんてもっての他だ! 戦闘にかけられる日数は1日、…いや半日だ! 半日で魔王軍をフルボッコにして、国民総出で後片付けをする。それしか道はない!」
珍しくジンが大きな声を出す。
そんな彼に、黙って聞いていたゲンジ先輩が力強く頷いた。
「うむ。我も同感だ」
筋骨隆々の腕を組みながら、メンバー全員を見渡していく。
「迫り来る脅威に対し、何もせず静観するなど愚の骨頂。我らは行動を起こすべきだ」
「…そうは言いますが、生徒会長に見つかったらどうするつもりですか? 会長が帰ってくるのがわかってて、魔王軍を討伐したと知られたら。…僕達だって、無事ではすみませんよ」
誠士郎先輩はどこか落ち着かない様子で、何度も眼鏡をかけ直している。よく見ると、少し顔色が悪いかも。
「…皆さんは知らないんですよ。本当に不機嫌になった会長が何をするかを」
肩を小刻みに震わせながら、思い出すように遠くを見つめる。
すると、元々悪かった顔色が更に青白くなっていく。
「…うっ、お腹が。…すみません、ちょっとトイレに―」
「…あ、はい」
ボクたちに見送られながら、誠士郎先輩はふらふらと会議室を出て行く。あれは重症だ。
「さて、小煩い小姑が消えたところで。皆はどう思う?」
改めて、ゲンジ先輩がメンバーを見渡していく。
「…まぁ、確かに」
「…何もしないよりは良いと思います」
ミクと有栖が答えたところで、皆の視線がこちらに集まる。普段は意見すら言わないコトリや碓氷君までも顔を上げている。
「ユキはどうだ?」
「…ボクは」
ゲンジ先輩の問い。
そして、ジンの鋭い視線が突き刺さる。
「…戦うべきだと思う」
そんな中、ハッキリと自分の意見を言う。
「誠士郎先輩の言うとおり、会長に見つかったら何を言われるかわからない。…でも、何もせず手をこまねいているのは、もっと嫌なんだ」
メンバー全員の顔を見ながら、ボクは力強く言い放つ。
「戦おう! 会長と!」
ゲンジ先輩とジンは満足そうに頷き、ミクや有栖たちもしょうがないと言うような表情を浮かべる。
「…まっ、何とかなるでしょ」
「ふふっ、さすがユキ姉さま。その言葉、とても心に響きましたわ」
「うむ。これで決まりだな」
ゲンジ先輩は立ち上がると、天高く拳を突き上げた。
「我ら、ここに集まりし兵ども! この国を魔の手から守るために、力を尽くさん!」
高らかに宣言する屈強なオーガ族。
そんな彼に呼応するように、メンバーが次々と立ち上がった。
ざぁ、と全員が拳を突き出す。
そして最後に、ボクもその一員となる。
十人委員会の心が1つになる。
たった1つの目的に、死力を尽くす。
「「全ては、生徒会長からこの国を守るためにっ!」」
それ以上の会話はなかった。
皆、視線を合わせては互いに頷きあう。
心と心が繋がり、強大な敵へと立ち向かう力となっていくのだ。
そんな中、独り残されたアーニャが呟く。
「…え? 目的が変わってない?」
――◇――◇――◇――◇――◇――◇――
秋晴れ。
乾いた風。
穏やかな波音に、少しだけ肌寒い潮風。
樹木の葉は赤く染まり、ふとした拍子に落ちていく。
はらり。
はらり。
石畳を彩る極彩色の絨毯。
運河と水路を敷き詰めたヴィクトリアに、秋の色合いが濃くなっていく。
波の音。
秋風の声。
寂しそうに鳴く海鳥。
薄い雲が映える空は、手が届きそうなほど近くなる。
手を伸ばして掴もうとしても、そこにあるのは夏の名残のような太陽の温もり。
それもすぐに風に攫われて、消える。
こうして、また1つ。
季節が巡っていく。
…秋が、来た。




