第18話「それでも、私は嬉しかった。 彼女を守ることができて誇らしかった」
私の言葉に、男は戸惑ったような表情を浮かべている。
このまま頭を撃ちぬくのは簡単だが、それではこの男は苦しみのあまり、彼女の髪を引っ張ってしまうだろう。それだけは避けたい。
「え? え、ええ?」
男は何が起きたのか理解できす、隣で倒れている同僚を見て目を見開いていた。
「聞こえなかったの? 彼女から手を離しなさい」
私は男の額に銃を押し付けた。
「ひっ、ひぃっ!」
男はようやく、自身の危機を察したのか、悲鳴をあげながら怯えた表情を浮かべる。
だけど、まだ彼女の髪から手を離さない。
それが私を苛立たせる。
「おいっ、そこの黒髪の女! 銃を捨てろ!」
一番遠くにいた3人目の男が声を荒らげている。
肩の銃を構えて、私に銃口を向ける。
私は一度だけ、チラッと3人目の男の方を見た。位置と距離を確認して、再び目の前の男に視線を戻す。
「聞こえないのか! 撃つぞ!」
銃を構えた男は、弾を込めるために一瞬だけ銃口を私からそらした。
その瞬間。
私はスカートの中に隠した暗殺銃、『白虎』を引き抜いた。
そして、目の前から視線をそらすことなく、3人目の男に向けて引き金を引いた。
パパン!
二連発式の暗殺銃の弾丸は、迷うことなく男の持っている銃に吸いこまれていく。マスケットの銃身を砕き、一瞬にして銃としての機能を消失させる。
「う、うわっ! なんだ!」
「じゅ、銃が壊れたぞ!」
男たちは悲鳴のような声をあげる。
それでも私は、目の前の男から視線を動かさない。
「ひ、ひえっ!」
「さぁ、早く。彼女から手を離しなさい」
男は脅えきったまま、慌てて彼女の髪から手を離した。
「やめてくれ、撃たないで…」
懇願するように男は頭を下げる。
私は銃を下ろしながら、自分より背の高い男を見下した。
「わかったわ。撃つのはやめましょう」
「あ、ありが…」
男が顔を上げた、瞬間。
私は『ヨルムンガンド』の銃身を顎に叩きつけた。
ゴキゴキッ!
男の顎が音をあげて砕ける。銃を通して、私の手にその衝撃が伝わってきた。
「ぐ、ぐほへっ!」
顎を砕かれよろめく男。
そんな男の腹に、私の右足が深々と突き刺さった。
男は悲鳴も上げることなく吹き飛んでいく。遠くの店の窓に激突し、ガラスや壁の破片が散乱する。その男が生きているのか、もはや私は興味すら引かれなかった。
「…ふん」
私は自分の髪をなびかせる。
長い黒髪を風に委ねながら、そこで蹲っている彼女を抱くように手を回す。
「大丈夫、アーニャ?」
「…う、うん。ありがとう」
彼女は涙を浮かべたままの目で私を見た。
その表情は、どこか戸惑っているようにも見える。
「…あなた、ユキよね? 何だか、別人のように見えたけど」
それでも、私は嬉しかった。
彼女を守ることができて誇らしかった。




