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第5話「10番目は、どこに?」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 青空はどこまでも透き通っている。

 つい最近までは、夏らしい雲が鎮座していた空も、薄い雲が綿飴のように広がっていた。残暑が終わり、少しずつ空気も乾燥してきた。


 海と運河の国。海洋国家ヴィクトリア。

 広大なアドリア海に浮かぶこの国は、一本の大きな運河と無数の小さな水路で構成されている。干潟を埋め立てた限られた土地に、所狭しと建物が立ち並ぶ。


 ゴンドラのゆく水路と、レンガ造りの建物と、どこか薄暗い路地裏。

 この前まで聞こえてきた蝉の鳴き声はなくなり、石畳から立ち上る陽炎もほとんどみない。…秋が、すぐそこまで来ていた。


「…それで、快司の奴はどこにいるのだ?」


 十人委員会の会議室に、不機嫌そうな声が響いた。

 声の主であるオーガ族の男は、腕を組んだまま瞠目する。

 彼の名前は、郷田源次郎。

 ボクたちは『ゲンジ先輩』と呼んでいる。


「わかりません。国中をくまなく探しているのですが、まるで手がかりがありません。…陣ノ内たちはどうですか?」


 眼鏡をかけた青年が、銀色の狼男に聞く。

 すると、狼男はわかりやすく肩を竦めた。


「俺もダメだ。コトリに頼んで空から探してみたが、まるで見つかりゃしねぇ。なぁ、コトリ?」


「…うん」


 膝の上にいる幼い妖弧を撫でながら答える。

 銀色の狼男の名前は、陣ノ内暁人。ボクたちは『ジン』と呼んでいる。

 そのジンの膝にいる、小さな女の子は小鳥遊ゆみ子。名字をもじって『コトリ』を呼ばれている。狐の耳と尻尾を持つ、可愛らしい女の子だ。


「はぁ、成果ないですか。どうしたらいいのでしょうか?」


 眼鏡をかけた青年はため息まじりに呟く。その表情からは日ごろの疲れが滲み出ていた。彼の名前は小泉誠士郎。『誠士郎先輩』とボクは呼んでいる。


「皆さん、わかっていますか? 生徒会長が帰ってくる前に、メンバーの全員が集合しておかないと。大変なことになるんですよ?」


「…」


 誠士郎先輩の問いかけに、会議室に集まった皆が表情を固くさせる。

 そんなこと、わかっている。

 あの会長のことだ。メンバーが全員集まっていないとわかれば、どんな手段を使うか予想もできない。ボクは会議室の円卓に座っているメンバー全員を見渡した。


 ゲンジ先輩と誠士郎先輩は揃って黙り込んでいる。

 その隣のミクは、長くなった自分の髪の毛を弄りながら退屈そうにしていた。

 ジンとコトリはいつものように、1つのイスに2人で仲良く座っている。

 そして、ボクの合い向かいに座っている有栖と碓氷君は、2つのイスをぴったりにくっつけて、幸せそうに肩を寄せていた。

 …なんか、緊張感がバラバラだなぁ。


「ユキ君は、何かいい案はないですか?」


 突然、誠士郎先輩がボクに訊いてきた。


「…そうですね」


 人差し指を唇に当てながら、ボクは考える。


「快司君がいそうな場所は全部探したし、やっぱり自分から姿を消しているとしか―」


「なんのために?」


 誠士郎先輩が問う。


「先月の神無月さんの一件のように、何か裏で動いているならともかく。快司君がそのようなことをするとは思えません」


「あやつは馬鹿だからな」


 ゲンジ先輩も同調するように頷いた。

 確かに2人の言うとおり、快司君が自分から姿を消して暗躍しているとは考えにくい。


 …十人委員会の『No.10』である、岩崎快司君。


 何というか彼は、軽い・・のだ。

 面白いものにはすぐ飛びつき、面倒なことからはさっさと逃げてしまう。唯一の1年生ということもあって、協調性のない性格に頭を悩ませることも少なくない。悪い人間ではないのだが、ちょっと掴みどころのない困った後輩だ。


「あー、もう! 快司の奴、どこにいるのよ。あと探していない場所なんて、国外しかないじゃない」


 ミクがお手上げといわんばかりに嘆息する。

 その時だ。

 会議室の扉が勢いよく開いた。


「みんなーっ! 助けてよーっ!」


 バタンと手荒く扉を閉めて、その少女はその場に崩れ落ちた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 精神的にも幼女になっとるやんw
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