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第17話「…ボクは『私』となる」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



 …また、あの暗闇だ。

 ふわふわとした浮遊感の中、ボクは不自然なほど冷静だった。

 すぐにでもアーニャを助けにいきたいのに。そのために何をするべきなのか、頭の片隅で冷静に考えている。


 …力が必要だ。

 …アーニャを助けるだけの力を。


 ボクは顔を上げる。

 少し距離が空けたところに、あの黒髪の少女がいた。今のボクにそっくりの、長い黒髪の女の子。まるで、心の中に眠っている、もう一人の自分を見ているようだ。

 

 黒髪の少女は、唇に人差し指を当てながら何かを考えている。


 そして、にこっと笑った。

 人差し指と親指を立てて銃の形を作ると、少女の指がボクに触れた。すると体の奥から暖かくなっている。まるで、少女の一部がボクの体に流れ込んでいくようだった…



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



 …カチャ。

『私』は腰に手を当てて、ヨルムンガルドを静かに引き抜いた。


 重厚な愛銃の重さが、しっくりと手に馴染む。

 マガジンをスライドさせて、素早く残弾の確認をする。

 通常弾が8発。

 敵の男は3人。

 問題ない。


「…やめて、…もうやめて」


 彼女の悲痛な叫びが耳を打つ。

 胸の中で、男達への怒りが満ちていく。


 しかし、焦ってはいけない。

 確実に仕留めないと。


「…『クイックドライブ』」


 私は小さく呟いた。

 すると、騒がしいほどの喧騒が遠くなっていく。周りの人たちが動きが遅くなり、時計の針もまるで止まってしまったかのようだ。


 …一瞬が、永遠に引き伸ばされていた。


「待ってて。今、行くから」


 彼女までの間に邪魔な人ごみがいるが、問題はない。

 私は腰を軽くかがめると、彼女に向かって走り出した。


 タンッ。

 地面を蹴り、跳躍する。


 宙を飛んでいる私のことを誰も見ようとはしない。

 いや、視認すらできないことを、私は知っている。彼らには、私の動きを目で追う事はできない。


 それが、私の得意とするスキル。『クイックドライブ』だ。


 時の流れを極限まで緩慢にさせて、その緩慢な世界に自分を介入させる。ゆっくりと流れる世界を、自分だけは時の流れに関係なく動くことができる。他人から見たら、目にも追えないような超高速で動いているように見えるはずだ。


 目の前に、白い海鳥が実にゆっくりとした速さで飛んでいる。

 このままだとぶつかってしまうので、仕方なく私は体を傾けて海鳥との衝突をさける。


 トンッ。

 小さな音がして、足の裏に地面との軽い衝撃が走る。


 それと同時に駆け出した。

 『クイックドライブ』が切れるまで、あと2秒。


 私は右手に銃を構えたまま、男達に向かっていく。

 男達は気づいていない。


 あと1秒。


 一番近くにいた男の首筋に蹴りを入れる。

 男は固まった笑顔のまま、ゆっくりと地面に崩れていく。そのまま体勢を整えつつ、私は彼女の髪をつかんでいる男に銃を向けた。


 …0秒。


 時は再び動き出して、元の喧騒が戻ってくる。


「ひひひっ、この女。綺麗な髪をしてー、 …ぐはぁぁ!」


 最初に聞こえたのは、首筋を蹴られ地面に叩きつけられた男の悲鳴だった。私は、もう一人の男に銃を突きつけたまま、静かに口を開く。


「彼女から手を離しなさい。このまま撃ち殺されたくなければね!」

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