表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/358

第33話「隷属魔法【黒薔薇の契り】」


「うふふ。それでは、ユキの一番好きなものはなんですか?」


「…はい、砂糖とミルクはたっぷり入ったカフェラテです。お姉さま」


「では、一番嫌いなものは?」


「…そ、それは、…ピーマンです。あの苦いのが嫌いなんです」


「ふふっ。だったら、わたくしがピーマンの入った手料理を作ったら、どうするのですかか?」


「た、食べます! お姉さまが作ってくれるものに、嫌いなものなんてありません!」


「ふふっ、いい子ね。ユキは」


 ダリオ宮の2階。

 その一番奥になる部屋に、ユキと神無月かんなづき有栖ありすの姿があった。 ユキがこの屋敷に着てからというもの、ずっとこうやって他愛ないお喋りを続けていた。


 相変わらず、ユキの服装は欲情的な拘束衣装ワンピースドレス。撫子色に染まりつつある長い髪を揺らしながら、熱っぽい目つきで神無月のことを見つめる。


「あぁ、ユキ。本当に綺麗ね」


「う、嬉しいです。お姉さまにそう言っていただけて」


 もじもじと膝を擦りながら、恥ずかしそうに顔を赤くさせる。

 ユキの首筋に植え込まれた呪術は、黒茨の刻印となって全身に刻み込まれている。拘束衣装ワンピースドレスの胸元から覗く白い躯には、穢れを象徴しているように刺青が見え隠れしている。

 だが、そんな姿でさえ、神無月には美しいと感じていた。


「うふふ、素直な子は好きよ。ユキはずっとわたくしの傍にいてね」


「はい、もちろんです。私がお姉さまから離れることなんて、考えられません」


 力強く力説する少女。

 だが、その瞳はどこか虚ろで、意志の光を灯していない。


 それでも、神無月有栖は幸せだった。

 安心できた。

 自分を好きでいていくれる人の存在が、彼女を安寧へと導く。


「ふふふ、可愛い子。心の底から、あなたを愛しているわ」


 しかし。

 だからこそ。

 神無月の胸に、邪悪な想いが芽を開く。


「ねぇ、ユキ。あなたに訊きたいことがあるのだけど?」


「はい。何ですか。お姉さまになら全て話します」


「うふふ。全て、とは?」


「全部です! 嘘偽ることなく、お姉さまに私のことを曝け出したいのです」


 想いを告げる乙女のように、胸の辺りで両手を握る。

 首に刻まれて、白い肌へと走っている刻印があまりにも淫靡だ。


「ふふふっ、それじゃ話してくれないかしら。あの日のことを」


「あの日とは?」


 ユキは虚ろな目で問い返す。


「ふふっ、あの日よ。…2年前、あなたの・・・・お姉さんが・・・・・亡くなった・・・・・日のことを・・・・・


 その言葉に。

 ユキの肩が、びくりと震えた。

 まるで、脅えているようだった。


「…え」


「ふふっ、わたくしには全部を話してくれるのでしょう? さぁ、聞かせてちょうだい」 


 動揺するユキを見て。

 神無月が、にやりと嗜虐的な笑みを浮かべる。

 愛しているものを虐げるという、常人には理解できる嗜好。


「どうしたの、ユキ?」


「…お、お姉さま。…それだけは」


「うん? なんでしょう?」


「…それだけは、許してください」


 震える肩を抱きながら、少女は深く頭を垂れる。


「…お願いです。…他のことなら、なんでも話しますから。…あの日のことは訊かないでください」


「ふふっ」


 テーブルに額をつけるように頭を下げているユキを見て、神無月は更に歪んだ笑みを深める。

 …あぁ、美しいわ。

 …この苦悩に満たされた顔が、人の美しさを浮き上がらせるの。

 …もっと。

 …もっと、見せて。


「うふふ、あはは」


 神無月の笑みは揺るがない。

 あなたは壊れてしまったら、どんな顔をするのかしら?

 心に宿る、歪んだ愛。

 愛しているが故に、その人を壊したい。


「…どうか、お姉さま」


 ユキが懇願する姿を見て、神無月は端的に言い放つ。


「ダメよ。あなたは全部、話さなくてはいけないの」


 その言葉に、ユキの顔が絶望に染まる。

 顔色は青白くなり、動揺しているのか浅い呼吸を繰り返す。


「ふふっ、『命令』よ」


 神無月が微笑みながら、その言葉を言い放つ。


「っ!」


 その瞬間、ユキの体がビクンと波打った。

 首筋に埋め込まれた呪術。そこから芽を出し、身体中を這いずり回っている黒い茨の刺青が。

 …ズリュズリュと、蠢きだしたのだ。


「あっ! あうっ!」


 甲高い声を上げる少女。

 まるで喘ぎ声のような嬌声を上げて、羞恥に顔を真っ赤にさせる。


「うふふ、気持ちいいでしょう? あなたは虐められて感じちゃう子だものね」


「や、やめて! お姉さま!」


 頬を上気させて、瞳を涙で潤ませる。

 そんな媚びた様な視線を浴びて、神無月は満足そうに『命令』を取り下げた。


「ふふっ。いい顔ね、ユキ」


「…はぁはぁはぁ」


「さぁ。先ほどの問いに答えてくれるかしら?」


「…はい、…お姉さま」


 ユキの心は、完全に折られてしまっていた。

 黒茨の刺青を刻まれた躯を抱きながら、少女は消えそうな声で答える。

 隷属魔法【黒薔薇の契り】

 主従関係が成立しているこの2人には、『主』と『隷』という力関係が根底に存在していた。『主』である神無月の『命令』に、『隷』であるユキは応えなくてはいけないのだから―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ゆきりんの姿ゾクゾクしますぞー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ