第14話「女の敵は鉄槌を!」
「ぶぼへっ!」
地面に叩きつけられ、男はよろよろと顔を上げる。
何が起きたのか、男にはわからなかたのだろう。必死に眼鏡をかけ直しながら、鼻血をぼたぼた垂らしている。
「な、なにがおきてー」
「あぁん!? このウジ虫野郎が! てめぇは最も犯してはいけない罪を犯した!」
バンッ、とアーニャは男に向けて指を刺す。
「ひとつ、ユキに手を出そうとした! ふたつ、ユキの体に触れた! そして、みっつ! ユキにいやらしいことをしていいのは、この私だけなのよ!」
「ひっ!」
男が脅えたような表情をする。
だが、アーニャは止まらない。目にも留まらない速さで男に接近すると、強烈な回し蹴りを放った。
「ぎゃふ!?」
男の体が、再び宙に舞う。
「おらおらおらおらーッ!」
「ぶぎゃ、ごへっ、ばぎゃっ!?」
殴る。殴る。殴る。殴る。
殴りまくる!
アーニャの拳が凄まじい速度で叩き込まれていく。
すべて顔面に。
「くたばれーッ!」
「ぶほへぇーーーーーーーーーっ」
トドメの一撃を放ち。
男はぐちゃぐちゃに顔を歪ませながら、地面に落ちていった。
「ふんっ! これだから男は嫌いなのよ!」
アーニャは優雅に髪をなびかせながら、汚くなった男の顔面を見つめる。
男は無様に転がりながら立ち上がろうとする。
だが、恐怖のせいでうまく立つことができす、何度も地面に転がり落ちる。
ズンッ、とアーニャが前に出た。
そして、地面に這い蹲っている男の手を踏みつける。
「あ、あがっ!」
男は苦痛に顔を歪める。
「ふん、やれやれ。趣味の悪い制服ね…。だけど、もう気にする必要はないか。もっと趣味が悪くなるんだから。…お前の顔面のほうがな」
「ひ、ひぃ!」
男の顔が恐怖に引きつる。
そんな男を見て、アーニャは男の手を激しく踏みしめた。
「いいこと。…ユキはね、私の嫁になる人よ。世界で一番大好きな人なの。今度、手を出そうとしたら、生きたまま全身の骨を砕いて、アドリア海に沈めてやるわ。覚悟しなさい!」
「ひ、ひゃい! す、すみませんでしたーっ!」
前歯が一本だけになった男は、首が折れるほど激しく頷いた。
そして、よろめきながら立ち上がると、慌てふためきながら逃げていった。
しばらくの間、呆然とアーニャの後ろ姿に見とれていた。
「大丈夫、ユキ?」
「…う、うん」
蜂蜜色の髪をなびかせるアーニャを見ながら、ボクは静かに頷いた。
「そう。よかった」
嬉しそうに笑みを浮かべるアーニャ。
このときボクの心は、どうしようもなくドキドキしていた。




