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第19話「銃職人の言葉」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 ズドンッ!

 ズドンッ!


 悪魔の咆哮のような銃声が響き渡る。

 その度に、少女の軽い体が後ろへと吹き飛ばされそうになる。


「…ラスト」


 ガゴン、と極大口径の銃弾を装填し、鎖閂式ボルトアクションのストックレバーを押し込む。


 銃本体に取り付けられた狙撃スコープを覗き込み、遠くの水面に浮かぶ標的を狙う。

 浮きに描かれた丸い円。その中にある、点のような染みを睨みつける。

 巨大な対戦車アンチマテリアルライフル。

 銃本体は銃座に固定し、うつ伏せにならないと撃てないほど、この銃は巨大だ。


『魔銃・ヘル』

 1ヶ月ほど前、海龍王リヴァイアサンの討伐に活躍した愛銃である。

 この『ヘル』の魔弾、『穿つ閃光の曳弾ヴァン・ヘルシング』は空に線を描くように、銃弾の軌道が反れないという能力を有している。


『ヘル』だけではない。同じ魔銃である『ヨルムンガンド』、『フェンリル』も人知を超えた特別な力を秘めていた。


 だが、それ故に。代わりが効かない。


「…」


 意識を集中させて、引き金を引く。

 ズドンッ、と轟音が鳴り、体が吹き飛ばされそうになる。

 その直後、水面に浮いていた的が木っ端微塵となった。


「…ちっ、イマイチ」


 ため息をつきながら、『ヘル』の引き金から手を放す。

 水面を揺れる標的には当たったが、本当に狙っていた黒い染みにはカスリもしない。

 ボクは黙って後ろを振り向いた。


「…」


 そこにいたのは、老いた職人だった。

 小柄な体に、曲がった腰。

 だけど、眼差しだけは異様に鋭い。

 よく見ると、足腰はしっかりしており、節ばった両手は熟年の職人を彷彿とさせる。


 …この国で一番腕の立つ、銃職人だった。


「ダメですね。まだ、誤差が残っています。500メートル先で、数ミリほど左に寄ってしまいます」


「…」


 ボクは感想を述べるが、老職人は黙ったまま頷きもしない。

 じっと、鷹のような鋭い眼差しで『ヘル』を睨みつける。


「ふぅ」


 ボクはため息をつくと、建物の影へと移動する。

 そして、無言の職人を黙って見つめるのだった。


「…」


 1ヶ月前の戦闘で、『魔銃・ヘル』を痛めてしまった。

 リヴァイアサンへの最後の銃撃のあと、ボクは時計台から落ちながら気を失ってしまった。ボク自身はミクが助けてくれたけど、『ヘル』は石畳に叩きつけられて、バラバラになってしまった。


 そこで、修理に依頼したのが、この国で一番の銃職人であった。


 名前は知らない。

 聞いたけど答えてくれなかった。

 どうやら彼は、自分の存在は名前にはなく、仕事の結果だけで証明するものだと考えているらしい。


 生粋の職人。

 己の生きる道。

 揺るがない強い信念。


 正直、…圧倒された。

 小柄な老人が働くその後ろ姿に、言葉も出なかった。

 以来、ボクの中では『職人マエストロ』、コルト・ガバメントと呼ぶことにした。


「…」


 職人コルトは煙草の白煙を揺らしながら、じっと『ヘル』見つめている。

 声をかけることもできない真剣な眼差し。

 きっと頭の中では、思考が高速に回転しているのだろう。


「…」


 そんな彼だからこそ、ボクは嘘をつけない。

 感じたことを包み隠さず話して、あとは職人マエストロに全てを委ねる。

 銃を預けるということは、命を預けること。

 ボクは静かに、職人が答えを出すのを待っている。


「まだ、調整には時間がかかりそうですね」


「…」


「まぁ、人外の者が作ったと言われる曰く憑きの銃です。修理や調整には困難を極めるでしょうが、全て職人マエストロにお任せします。よろしくお願いします」


「…」


 無言のまま、わずがに首を縦に振る。


「それじゃ、また来ますね」


「…ふん」


 ゴトッ、と職人マエストロコルトが無造作にカウンターに手をつけた。

 何かと目を向けると、そこには一丁の銃が置かれていた。

 深い青色に包まれた、大型の拳銃ハンドガン


「うわっ、『青龍』!? もうメンテナンスが終わったんですか?」


 ボクは驚いて、その銃を手に取った。

『炸裂銃・青龍』

 その名の通り、炸裂弾専用の銃である。

 込められる銃弾は一発だけ。

 中折れ式と呼ばれるもので、リロードのためには銃本体を中ほどから折って、開放しなくてはいけない。『暗器銃・白虎』の兄弟銃にあたるものだ。


 カチャ…

 両手で握って、感覚を確かめる。

 掌に吸い付くような感じに驚きを隠せない。


「…さすが、ですね」


 ボクがぽつりと呟くと、職人マエストロコルトもわずかに唇を上げる。 

 メンテナンス代の銀貨を支払って、店を後にしようとする。

 その時だった。


「…お前さん、何かあったのかい?」


 驚いて、店内へと振り返る。

 職人マエストロが問いかけるような目つきで、こちらを見ていた。仕事以外で声をかけられるなんて初めてかもしれない。


「ど、どうしてですか?」


 面食らいながらも、ボクは返事をする。

 すると、職人マエストロは壁にかけてある旧式のマスケット銃を見て、ぽつりと呟いた。


「…自分を見失うな、若人。精一杯生きるのに何が大切なのか、それはソイツにしかわからん。他人に理解を求めても、仕方ねぇってことよ」


「は、はぁ」


「だからよ。今のお前さんみたいに、フラフラしている奴を見てられねぇんだ。まして、他人から何か言われた程度で揺らぐなんざぁ、頑張ってたときの自分に申し訳が立たねぇよ。わかるか?」


「…よく、わかりません」


「それでいい。わからなくていいんだ。だけど、忘れんな。赤の他人が何を言ったところで、テメェの生き方が正しいってことは変わらねぇ。絶対だ」


 それだけ言うと、職人マエストロコルトは奥の作業部屋に篭ってしまった。カウンターに置かれた銀貨には目もくれず。


「…」


 ボクは職人マエストロの言っていたことを思い返しながら、カウンターの銀貨をレジに入れる。


 …自分を見失うな?

 …ボクが、…自分を見失っている?


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