第8話「ひそかに動きだす、老人たちの悪行」
「…我々は選ばれた人間なのだ」
「…貴族として生まれ。その中でも、才ある資質を認められし者」
「…貴族の中の貴族。その器は王にすら届く」
「…我ら元老院が、このような日陰にいることすら大きな過ちなのだ」
真っ暗な部屋の中、老人たちが頷きあう。
『元老院』
このヴィクトリアの先王が倒れた際、若き王女に代わって国の舵取りを任された者たち。自分達の利益にしか目を向けず、国が荒んでいくのを傍観していた老人の集まり。王女に王位を返すことが惜しくなり、愚かにも暗殺を企てた不届き者の集団。
3ヶ月前、『十人委員会』によって王女が救い出され、全ての元凶である『元老院』は解散させられることになった。
その処罰は『家宅謹慎』。
極刑にすることもできたが、生かしたまま情報を引き出したほうがよいと、内務大臣であるハーメルン氏の進言が大きかった。
鉄仮面のハーメルン。
彼の拷問に近い質疑応答で、裏の組織が暴かれては消えていった
結果、『元老院』に属していた老人は表舞台から姿を消した。その内、半数以上が国外へと逃げ出したため、現在は7人が残っている状況だ。
「…くそっ。思い返すだけでも腹立たしい」
「…この間の『クラーケン』の撃退。そして『リヴァイアサン』の討伐」
「…国民共は、国を救った救世主だとほざいている」
「…はっ、所詮は愚民よ」
「…我らがこの国の管理をしてきたことに比べれば、その程度のこと取るに足らぬわ」
「…そうとも。真に国を任せられるのは我らだけだ」
老人達の苛立ちは募っていくばかり。
その時、誰が言い出したのか、会話の方向性が急激に変わった。
「…やはり、やるしかないな」
「…そうとも。『十人委員会』なぞ排除し、この国をあるべき姿へと戻すのだ」
「…奴らが化け物じみた強さを持っていようと、結局は人間」
「…付け入る隙など、いくらでもある」
「…不意打ち。失踪。事故死に見せかけた暗殺」
「…それに『十人委員会』の代表といえば、年端もいかない小娘よ」
「…消すことなど造作もないわ」
暗闇の中、1人が忍び笑いを漏らす。
それに呼応するように、部屋にいた全ての老人が狡猾な笑みを浮かべる。
「…ふふふ、決まりだな」
「…あぁ。我らの手で、この国を正しい道へと導くのだ」
「…奴らに復讐を。奴らに制裁を」
「…『十人委員会』の連中供め。目のものを言わせてやるわ」
「…狙うは奴らの代表。『ユキ』とかいう小娘だ」
「…手はこちらで打っておこう。ちょうど、うってつけの連中がおるわ」
厭らしい笑い声が響く中。
暗闇の部屋の奥にあるソファーで、1人の人影が動いた。
「…それに、我らには」
「…守護者たる女神がいる」
「…万が一、奴らから報復を受けようとも」
「…必ずや返り討ちにしてみようぞ」
老人たちの視線を浴びながら、その人物は緩やかに立ち上がった。
撫子色の長い髪。
透けるような白い肌に、エルフ族特有の尖った耳。
女性らしい豊満な肉体を見せつけるかのような、薄手のローブ。
その風貌は、大人の女といった妖艶さが漂っており。ユキ達と同じ、『十人委員会』のメンバーであった―




