表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/358

第7話「私は今、この世界で生きている。」


「さすがに、ここからの景色は絶景だね~」


 ヴィクトリアの中心を流れる、『S』字上の大運河。私が座っているリアルト橋の欄干から、その雄大さが一望できる。多くのゴンドラや商業船が通るこのメインストリートも、『アクア・アルタ』の影響かほとんど人気が見られない。きっと、全てのお店が閉まっているので、アーニャのように家の中でのんびり過ごしているのだろう。 


 それでも、たまにゴンドラの往来を見ることができ、欄干から手を振ったりしている。高潮で水位を増した大運河も、いつもと変わらず雄大だ。


「ん? あのゴンドラって…」


 ふと、見覚えのある舟が目に付いた。黒く塗りつぶした船体に、2人の人物が乗っている。オールを操作しているのは、銀色のたてがみを持つ人狼族。そして、船の先でぼー、としているのが狐の耳と尻尾を持つ小さな妖弧。


 ジンとコトリだ。


「おーい、ジン。コトリ」


 私が手を振ると、ジンが笑みを浮かべて答える。

 そのまま大運河に降りた。水面を蹴って、ジンのゴンドラへと近づく。


「…【アクアドライブ】か。便利なスキルだな」


「あれ? ジンは使えないんだっけ?」


「ドライブ系統のスキルは、習得できる職業に限りがあるんだよ。『魔法銃士』と『魔法剣士』。あとは、『トリックスター』くらいさ」


「そうだっけ? 自分で使っているとわからないもんだね」


 そう言いながら、ジンのゴンドラにお邪魔させてもらう。船体には、野菜や果物などいろんな食材 がびっしりと詰まれている。


「…ジンは買出し?」


「まぁな。予定外の食い扶持ぶちが増えてな」


 くいっ、とジンが顎をしゃくる。その先にいるのはコトリ。眠いのか、うつらうつらと小さな体を左右に揺らしている。


 先月くらいから、ジンとコトリは一緒に暮らしている。同棲だ。コトリがジンのことを気にしているのは丸わかりだし、ジンのほうも別段に迷惑そうには見えない。

 ぶっちゃけ、お似合いの2人だ。


「だけど、さすがに大変だったぜ。どこの店も完全に閉まってやがる」


「あー、そうみたいだね」


 そう言いながら、自分の冷蔵後の中を思い出す。昨日、アーニャが買い物に行ったのは、そんな理由があったのか。


「はぁー。おかげで野菜は手に入ったんだが、肉がねぇ。しばらくは菜食主義者でも気取ろうかね」


 ジンがわかりやすくため息をつく。


「大変だね。なんだったら、お裾分けしようか?」


「マジで!?」


 驚いたように目を丸くさせる。


「うん。アーニャやミクも肉食だけど、まだまだ余裕があったし。これから寄ってく?」


「おお、助かるぜ! だとよ、コトリ。これからユキのとこに行くぞ」


「…うん」


 コトリはそう答えて、再び眠そうに揺れだす。


「じゃあ、時間もいいとこだし。これからウチでお昼ご飯にしようっか。ジン、よろしくね」


「おうよ。まかせな」


 そう言って、ジンが思いっきりオールを漕ぎ出した。

 静かな空気。

 優しい時間の流れ。


 心は軽く、些細なことでも特別に思えてくる。

 私は今、この世界で生きている。



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



『アクア・アルタ』

 このヴィクトリア全ての人が休む静かな時。


 だが、そんな時でも。

 暗躍する輩は存在した。


「…くそっ、忌々しい」


「…なぜ我々が、こんな仕打ちを受けないといけないのだ」


「…全て、奴らが現れたせいだ」


「…おのれ、『十人委員会』供めが」


 薄暗い部屋。

 真昼なのにカーテンを締め切り、部屋の中には光と呼べるものが1つもなかった。相手の顔も見えない中、苛立った声だけが飛び交う。…これまでに散々な悪事を働いてきた、元老院の人間だった―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ