表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/358

第3話「ユキと、ミクと、アーニャの夏の日常」


 その合流していないメンバーはというと―


『No.5』の神無月 有栖ありす先輩。ギルド内で唯一の回復役で、職業は基本職種である『神官』だ。物腰の温厚な大和撫子といった人だ。


『No.9』の碓氷涼太。上級職の『高位魔術師』で後方支援を担っている。人と接するのが嫌いなのか、基本的に人の輪に入ろうとしない。ずっと黙りこんで、離れた場所に1人いることが多い。正直、ボクは苦手な人である、


『No.10』の岩崎 開司かいじ。メンバー内で唯一の一年生である。職業は上位職の『トリックスター』。運任せのスキルが多いギャンブル性の高い職業である。



「まぁ、とりあえず。1人で背負い込むようなことはしないでよ。ユキには、あたしたちがついているんだし」


「…ミク」


 目の前に座っている彼女を見て、ボクは薄く笑みを浮かべた。


「…そうだね。皆が集まれば何とかなるよね」


「そうそう。今日は休みなんだし、ネガティブになってたらもったいなよ」


「あはは、その通りだ。…でもね」


 ボクは言い終わらないうちに、力なくベッドに突っ伏した。


「やっぱ、あついよ~」


「…まぁ、夏だしね」


 ミクが忌々しそうに窓の外を見る。

 レンガ造りのアパート。その3階から見える景色は、あまり良くない。まるで迷路のように建物が連なっている『ヴィクトリア』では、外の景色が家の壁か、細い路地であることは珍しくない。


 だが、それ故に。

 風通しが抜群にいい。海から吹く風が、路地や建物を縫ってどこまでも吹き抜ける。初夏にいたっては、その涼風だけで過ごせたほどだ。…だけど。


「まさか、こんなに暑くなるなんて思ってなかったよ」


「もぉ、むり~。暑くて死んじゃうぅ~」


 バタバタとベッドの上でもがいてみても、無駄に暑くなるだけ。最近、買いなおしたクイーンサイズのベッド。先月、ミクと仲直りした際に、もう1人の同居人が買ってきたものだ。今では毎晩、このベッドに女の子3人、仲良く・・・一緒に寝ている。


「夜も寝苦しいし、もうちょっと涼しくなってくれないかな~」


「…まぁ、寝苦しいのは別の理由もあるけどね」


「…そだね」


 そう言って、お互いに頬を染める。

 微妙に気まずい空気が流れ出す。

 その時だった。


「ただいまーっ!」


 バタン、と勢いよく玄関が開き、元気のいい声が部屋に響き渡った。


「ユキーっ! ミクーっ! アーニャ・ヴィクトリア、ただいま帰還しましたーっ!」


 少女の軽快な足音が、トタトタと近づいてくる。


「…なんであいつは、あんなに元気なのかね?」


「…さぁ。…アーニャだからじゃない?」


 ボクたちはか細い会話は、1人の少女の帰宅によって打ち切られた。


「あーっ! 2人とも、またダラダラしてるーっ! 私が1人で買出しに行ってたのにーっ!」


「…おかえり、アーニャ。買い物ありがとうね」


 気だるい体を起こしながら、今入ってきた少女へと視線を向ける。

 蜂蜜色の髪。

 同じ金色の瞳が、太陽にキラキラと輝いている。


 半袖に短パン。その上に薄手の上着を羽織っている。ネコ耳のついたフードは彼女のお気に入りである。

 彼女の名前は、アリーシア・ヴィクトリア。

 この国の王女様であり、次の女王が決まっている女の子。ボクたちは親しみを込めて、アーニャと呼んでいる。


「ほらほら、2人とも。アイスクリームを買ってきたんだから、そんなダラけてないでよ」


「あー、はいはい。ありがとうね、アーニャ」


 そう言ってミクは、アーニャに向けて力なく手を振る。

 このまえの喧嘩から、ミクとアーニャの仲も良くなっていた。軽口を叩くのはいつものことだけど、ちゃんと名前を呼んでいる辺りが著明な進歩だ。


「それにしても、暑いね~。この国は、いつもこれくらいなの?」


「んー、暑いのは毎年のことだけど。今年は特に暑いかな。ユキの世界じゃ、夏はなかったの?」


「いや、あったけど。…こんなに暑くなかったような気がする」


 ボクが答えると、ミクが呆れたように頭をかく。


「そりゃ、ユキがインドア派だからでしょ。扇風機やクーラーのついた部屋で、のんびりしてるから暑さにやられちゃうのよ」


 ミクの言葉に、ボクはぐぅの音を出ない。

 陸上部であった彼女は、常に太陽の下で健康的な生活を送っていたに違いない。走ることができない部長であったが、影でこっそり休んでいるような軟弱者ではない。


「まぁまぁ。夏は暑いものだから、しょうがないよね」


 そう言いながら、アーニャは買ってきた食材やアイスクリームを冷蔵庫へとしまっていく。魔法石駆動の冷蔵庫は、この猛暑では重宝している。


「それに、あと数日もしたら過ごしやすくなるから。心配しないで」


「え? どういうこと?」


 アーニャの言っている意味がわからなくて聞き返す。


「えーとね。なんて言えばいいかな?」


 腕を組んで考え込む。

 だけど、すぐに諦めたように強く頷いた。


「うん。どう説明したらいいかわからない! とにかく、あと数日で涼しくなるから待ってて」


 アーニャが満面の笑みで答える。


「ははは。期待しないで待ってるよ」


 力なく返事をして、そのままベッドに倒れこむ。

 この数日後。

 アーニャの言うとおり、ヴィクトリアの状態が一変していた―



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さーてわたしの大好きだった問題の章がやってまいりましたどうなるか楽しみだなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ