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第11話「女の子と、女の子のデート」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 まるで迷路だった。


 今、ボクのいる大通りでさえ、両手を広げたら他の人が通れなくなるくらいだ。そこから網の目のように分かれている路地は、人とすれ違うのが難しいほど。徒歩で目的の場所にいくのは、慣れ親しんだ人であっても難しいだろう。


 だけど、それは当然だった。

 なにせ、この国の本当の大通りは。地面(・・)の道ではないのだ。


『大運河』

 ヴィクトリアの中心を流れる『S』の形に蛇行した大きな運河。幅は対岸の人を判別できないほど大きく、大運河から流れる細かい支流が国中を巡っている。

 この大運河はヴィクトリアの中心であり、最も人の往来が激しいメインストリートとなっている。ゴンドラと呼ばれる小型の立ち漕ぎボートを使って移動することが、この国の常識だ。


 大運河は大きすぎるため、簡単に橋をかけることはできない。

 唯一、大運河によって分けられた土地の架け橋になっているのが、ボク達がいる『リアルト橋』であった。


「落ち着いた?」


「…うん。ちょっとは」


 ボクはアーニャと手を繋いだまま、そのリアルト橋を渡っている。

 大理石でできた大きな石橋で、細かな彫刻や無数の傷が歴史を物語っていた。画面越しで見ていたときも、手の込んだグラフィックだと感心していたが、実際に見てみると予想以上の剛健さに圧倒されてしまいそうになる。


「…人がいっぱいだね」


 ボクはリアルト橋を往来する人の数に圧倒されていた。パッと見ただけで、エルフやドワーフ、小人族など種族は様々だ。


「そりゃそうよ。この橋はヴィクトリアの中で、最も人が行きかう場所だもん。運河を歩いて渡れる唯一の場所だしね。食材や宝石、日用雑貨品なんかもここに来れば大抵は手にはいるわ」


 アーニャが楽しそうに街を案内していく。

 ドワーフの宝石商がいれば、魚市場では獣人の漁師が大きな声を上げている。本物の異世界の息遣いがボクを包んでいく。


「なんだか、…すごいね」


 ボクが思わず呟くと、アーニャが怪訝そうな顔をする。


「すごい?」


「うん。なんていうか、…わくわくしてくる」


 心が沸き上がってくる。

 目の前に広がる、生きた異世界に心が奪われていた。見たこともない種族の人たちが、見たことのないものを扱っている。


 画面越しでしか見たことのない世界が、ボクは直に触れている。憧れていた《カナル・グランデ》の世界にいるという実感がこみ上げてくる。それまでの不安など、どこかに飛んでしまいそうだった。


「ねぇ、アーニャ。あれは何?」


「それは魔法石よ。魔法の力を込められた宝石で、普通の人でも簡単な魔法を使うことができるの。ちなみにそれは、火属性の魔法石で、竈やコンロの火をつけるための…」


「あれは? あのヘンテコな仮面みたいなものは?」


「あれはお祭り用の衣装よ。もうすぐカーニバルだから、どこの店でも扱っているわね」


「へー。…あ、あれは? あの赤くて丸いやつ」


「…それはトマトよ」


 次々に目移りしながら、リアルト橋を渡っていく。

 渡りきったところで、とある店に目がいった。窓の向こうに、ガラスでできた小さな人形が展示されている。


「あー、ガラス細工はヴィクトリアの特産品でもあるから、人気もあるのよ」


 アーニャが店の看板を見ながら説明してくれる。


「…へー、そうなんだ」


 ボクは答えながら、じっとガラスでできた人形を見つめる。

 今までこういった可愛いものに興味なんてなかったのに、どうしても目が離せなかった。


「なんだったら、寄ってく?」


「え? いいの?」


「いいよ。でも結構高いから、買うのなら小物がオススメかな」


 アーニャに手を引かれて店内に入っていく。

 チリン、とガラスの呼び鈴がボクたちを歓迎する。


「いらっしゃいませ。どうぞ、ごゆっくりしていって下さい」


 女性店員の声と共に、視界一杯のガラス細工に目を奪われた。


「うわぁー」


 ボクは声を上げながら、棚の端からじっと見ていく。

 猫の置物や、魚の形をしたお皿。ガラスでできた羽ペンなど。太陽の光に反射して、キラキラと鮮やかに輝く。どれも女の子が好きそうなものばかりなのに、どうしてか欲しくてたまらなくなる。


「ねぇ、ユキ。これ可愛くない?」


「え、どれどれ?」


「これ。この猫があくびしてるやつ」


 そこには小魚を片手にあくびをしている太った猫がいた。ふてぶてしい態度なのに、どこか愛らしさが滲み出ている。見ていると、胸がキュンとなる。


「あっ、いいねー。買っちゃおうかな」


「後にしておいたら? これから街を回るんだし、ガラスだから壊れちゃうよ」


「そうだね。じゃあ、後で買いに来よっと」


 しばらくボクたちはガラス細工を見て回った。楽しそうにしているアーニャを見ていると、こっちまで楽しくなっていく。ウィンドウショッピングが楽しいと感じたのは、これが初めてだった。


 ふと、ガラスに映った自分達が目に入る。

 そこには楽しそうに買い物をする、二人の女の子が映っていた。

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