第44話「それは、とても懐かしい声だった」
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意識が途絶える瞬間。
私は、ただひたすら考えていた。
これでよかったのか?
こんなのでよかったのか?
結局、私はミクのことを理解することができなかった。
彼女が何を望んで、何に悩んでいるのか。
友達なのに。
何もできなかった。
意識が途絶え、考えることもできなくなる。
臆病で、繊細で、逃げることばかり考えている卑怯者―
そんな自分が嫌いだ。
暗転する意識の中、私はひたすら自分を呪った。
真っ暗な意識の底から。
その声は聞こえてきた。
それは、とても懐かしい声だった。
『これで、本当にいいの?』
…いいわけないよ。
『こんなことで、終わりになってもいいの?』
…嫌だよ。すっごく嫌だ。
『だったら、まだやることがあるんじゃない?』
…無理だよ。だって―
『だって?』
…私は、きっと何もできない。臆病で、心が弱くて、逃げることばっかり考えて。そんな自分が、本当に嫌い。
『ははっ。昔っから、キミは後ろ向きだよね。ウチが死んだ時だって、勝手に自分のせいにしてたし。身を挺して守ろうとしたウチの気持ちはどうなるのよ』
…それでも、できることはあったはず。
…私は、何もできなかったんだよ。
『あのね~。反省はいいけど、後悔は良くないよ。今は目の前のことを精一杯やりなさい。傷つくことを恐れず、何かを失う恐怖に負けず。例え、努力が無駄に終わっても、前を向く精神は必ず人を前進させる』
…前進?
『そうさ。自分可愛さに逃げてばかりいたら、何も手にすることができないよ。自分の身を切る覚悟がない奴が、何かを得られると思わないこと。傷つくことを恐れるな。傷ついて、傷ついて、ボロボロになっても、なお手を伸ばし続けろ。そうじゃないと、本当に欲しいものが現れた時に、手を伸ばすことが怖くなってしまうよ』
…私にできるかな。
…こんなにも弱いのに、そんな強い生き方。
『ははっ、何を言っているんだい。キミが弱いのは百も承知だよ。でも、だからこそ、ウチは言っているんだ。当たって砕けろ、だよ。建前なんで取っ払って、なりふり構わず、自分が思うままに行動してみたら』
…うん。
…ごめんね。いつも迷惑をかけちゃって。
『いいよ。だってキミは、たった1人の家族だもの。キミの幸せが、ウチの幸せなんだから』
…わかった。
…もうちょっただけ、がんばってみるよ。
『うん、ガンバレ!』
…ありがとう、姉さん。




