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ゼロから始まる勇者学  作者: ホメオスタシス
入学編
34/126

第31話 反抗(2)

第30話「反抗」が長かったので二つに分割しました。旧第31話「教師」は4/5中に投稿します。

着いたのは人気のない廊下の角。途端にばっとその生徒は、勇香を廊下に打ち当てた。


「……ぐっ」

「てめぇ!!」


 荒声とともに勇香の胸倉を掴む少女。

 やはり、レモンイエローの髪の少女だ。その背後には、案の定黒髪の少女も腕を組んで勇香を睨んでいる。


「あぁもう、何もかも台無しだお前のせいで!!!」

「……っ!」

「お前、どさくさに紛れて成川と手ェ組んでんじゃねえよ!!!」

「手なんて、組んでません……」


 勇香は恐る恐る、しかしわずかに強めた語調で反駁する。


「昨日、何があった」

「……っ」

「お前、昨日アタシがいない間に成川が味方してくれるような事があったんだろ。包み隠さず教えろ」

「ひ、陽咲乃が……陰口を言う人たちに向かって……説教してくれました」


「「はぁ!?」」


 二人は揃って、素っ頓狂な声を上げた。


「最近見ないと思ったら、よりによって……」


 黒髪の少女は頭を抱えて呟く。


「ちっ、一番の敵に回したくない奴が……なんでコイツの味方なんてしてんだよ!あいつも生徒会目指してるはずだろ!?」


 レモンイエローの少女は眼力を強めて勇香に顔を近づける。その威圧に呑まれ涙ぐんでしまう。だが勇香は歯を食いしばって、言葉を吐いた。


「陽咲乃は……信じてくれたんです……不正なんかしてないって」

「信じるだ!?」

「私は不正なんてしてません」


 勇香の意を決した答えに、少女は思わず胸倉を離す。それをいいことに、勇香は小さな声で反撃した。


「ひ、陽咲乃に言い負かされて苛立ってるんですか?」

「あっ?」

「お、大人げないですよ」

「てめぇ、調子乗るなよ」


 少女は怒りのままに勇香の足元近くの壁を蹴り上げ、再び胸倉を掴む。


「まだ容疑晴れてねぇんだぞ」

「ぅ……」

「なんか言えよコラ!!!!!!」


 目を瞑って勇香は俯いた。


 思えばあの日。地獄の宣言を受けたあの日から、どれだけの嫌がらせをこの身に受けたものか。


 陰口を言われるくらいなら、まだマシだった。良からぬ噂を広められても、“不正野郎”と蔑称を付けられても、まだ堪えられた。


 それなのに……

 

 個室トイレに閉じ込められた。


 机の下の物入れに、見るだけで悍ましい物体を仕組まれた。


 教科書をバケツ一杯に溜まった水で濡らされた。


 噂を信じ込んだ小柄な生徒に剣を向けられた。

 

 言い出したらきりがない。 

 

 嫌がらせに心を崩され、いくら指を咥えて慟哭したか。

  

 その全ての元凶が彼女たち。


 彼女たちからも、学園を出てかなければ暴力を振るうと脅された。

 全ては自分が不甲斐ないからだと自覚している。

 

 でも……

 

 それをいいことに、卑怯な真似をする二人に屈しないといけない。

 

 そんな理由なんて、元よりあるはずがない。


 もう限界だ。

 

 彼女たちにずっとずっと振り回され続けるのは、運命を狂わされるのは嫌だ。



 その瞬間──勇香のちっぽけな心が、紅蓮に染まった。



「そ、そもそも……なんで私が不正したと言い張るんですか?」

「あっ?」


 少女は虎のような目つきで勇香を睨む。

 だがそれで怖気づくことはしなかった。


 後ろ盾がいる。陽咲乃がいる。聖奈がいる。生徒会がいる。もう怖くなんてない。屈しちゃいけない。胸を張れ、そう言われたばかりだろう。


「証拠は!証拠はあるんですか?」

「そんなんお前が自分で言って……」

「あんなの証拠にならないって陽咲乃に言われたばかりですよね!?あなたたち頭悪いんですか!?」

「てめぇ!!!」


 少女は憤怒に任せ拳を構える。


「おいやめろ!」


 咄嗟に黒髪の少女はその拳を掴んで、勇香に諭した。


「お前も言い返すのやめて素直に認めろよ!!」

「認める……?証拠もないのに?なんで私は……勝手に決めつけられた言いがかりで、あんな辱めを受け続けないといけないんですか……」

「お前が生徒会に入った理由なんてそれしかねえじゃねえかよ!みんな分かってんだよそれを!!だからアタシに同調してんだよ!!!」


 本音を吐き散らすかのように、レモンイエローの髪の少女は投げつけた。

 その言葉に、勇香の中の何かがプツンと切れた。


「だから、才能って言ってるじゃないですか……」


「あっ!?」

「私が選ばれた理由は才能だって!!!何度も何度も言ってるじゃないですか!!!!!」

「才能……?」


 少女は眉を顰める。


「はぁ?そんな理由でお前が……」

「あるんですよ!だって私には“才能”があるんだもん!!私の魔力は魔王を倒せるって程って言われました!!!あなたたちの()()はそれほど賞賛されましたか!?されてないですよね!?」

「喧嘩売ってんのか!?」


 少女は力を込めて勇香に拳を打ち当てようとする。それを必死に黒髪の少女が押さえつけた。

 やがて、レモンイエローの髪の少女は腕をだらんと下げ、ぶるぶる震え出した。


「ふざけんなよ……!!アタシらは理不尽にこの世界に連れてこられて……才能があるからって今日まで鬱憤を堪えてきたのに、アタシらの才能ってのは全部嘘だったのかよ!!」

「梨花……」


「……っ」


 勇香は呆然と少女を見つめる。少女の瞳には、だらだらと滝のような涙が流れていたのだ。


「全部いいように騙されてたのかよ!!!!」


 少女は断末魔のような声を上げた。その声は地下中に響き渡る。だが、勇香は唾棄するように冷たく瞳孔を下げ、


「そんなの、知りませんよ」

「あぁ!?」


「騙される方が、悪いんです」


 引き攣った顔で、突き放すように口を突く。だがその言葉が、少女の引き金を引いてしまったとは、思いもしなかった。


「てめぇあたしらの事見下してんのか!?」

「見下してなんかいません。信じて欲しいだけです」

「……っ」

「信じてくれましたか?」

「信じるわけねぇだろ」

「そうですか。ならもういいです」


 目線を下げたまま、勇香は壁から離れる。これ以上は齟齬しか生まれない。もう立ち去ろう。 

 

 でも解放などしてくれなかった。その華奢な肩を、レモンイエローの髪の少女が掴んだ。


「待てよ。話はまだ終わってないだろ」

「なんですか?もういいじゃないですか。私は信じてもらえなくても構いませんので。その代わり、これ以上関わらないでいてくれたら」

「これで終わったつもりだと思ってんのか?アタシらはまだ納得してねぇんだよ」

「じゃあ、どうすれば納得してくれるんです……」


 半ばムキになって、勇香は少女に振り返った。


「でもお前が才能あるって言い張り続けんなら……いいよ試してやるよ」

「試す……?」


 と、吹っ切れたように少女は首を振る。

 そして冷たい声で、しかし憤怒籠った声音で、それを吐いた。


「決闘だよ……アタシと決闘しろよ!!!」


「えっ……?」


 勇香は口を噤んでしまった。


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