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ゼロから始まる勇者学  作者: ホメオスタシス
入学編
31/126

第28話 夜明け

(2022.3.7)近況ノートでもお伝えしましたがプロローグ部分を少しリメイクしてみました。

既に読了済みの読者様はもう一度ご一読いただけるとありがたいです!

 ぷるぷると振動し、スマホは耳元でつんざくような騒音を鳴らす。その音で覚醒し上半身を起こした勇香は、寝ぼけ眼のままぐっと両手を伸ばした。  

 

 目を擦り、陽光が差し込む窓から外の景色を覗く。

 見事な快晴だ。周囲に並ぶヨーロッパ調の美しい建造物が朝日に照らされ、勇香の心を癒す。


 思えば“起床する”と言う行為が、こんなに心地よいものだと実感できたのは初めてだ。一昨日までの勇香から見れば、信じ難いの一言だろう。

 感嘆の息を吐き、スマホのアラームをワンタップで停止。床に足をついて、ベットから立ち上がった勇香。朝の陽光を浴びながらTシャツとショートパンツを脱ぎ、派手な制服に着替える。着替え終えると、よしっと身体を奮い立たせ寝室を後にした。

 

 ダンダンと音を鳴らしながら、勇香は階段を降りる。二階にポトッと足を落とすと、布巾でダイニングテーブルを拭いていた聖奈が挨拶してきた。


「あっ、勇香ちゃんおはよう」

「おはようございます」


 勇香はその声に明快な挨拶で返す。そして朝のルーティンを熟すために洗面台に向かった。

 洗面台で顔を洗い、シャコシャコと歯を磨く。寝ぐせ立った髪をヘアブラシで梳かす。すっきりしたところで、勇香は鏡に向かってにやけついた。

 

 うん。大丈夫。

 自信を持てるように。


 “惨め”なままじゃいられない、友達ができたのだから。

 ずっと変わろうとして、変われなかった自分。今度こそ変わりたい。



 自らを鼓舞して、勇香はくるりと振り返る。

 そしておもむろにポケットの中からスマホを取り出す。スマホのキーパッドに、三桁の番号を打ち込む。プルルルと呼び出し音が鳴ると、勇香は耳に当てる。その動作のままリビングに戻ったことで、不審に顔をひきつらせた聖奈が勇香に話しかけてきた。


「勇香ちゃん……ど、何処に電話をかけてるのかな?」

「とりあえず不法侵入者二人を警察に通報しようかと思って」


「ち、違うの!!これには訳があって!!!」


 途端、全速力で勇香の元に駆け込みスマホを引き剥がそうとする聖奈。そんな彼女の仕草に気圧され、勇香は渋々電話を切る。と、キッチンから迷彩柄のエプロン姿の麻里亜がひょこっと顔を出した。


「あっ、勇香ちゃんおはよっすー」


 簡素な挨拶だけを投げつけ、再びキッチンに消えた麻里亜。一方、聖奈は震える手で勇香の両肩を持ったまま跪く。勇香はしくしくと萎れた顔で違うの……違うの……と呟いている聖奈に憮然と目を凝らした。


 そもそもだ。何故二人が朝っぱらから勇香の家にいるのか。確かに昨日、麻里亜と聖奈は勇香の家を訪れた。そこで料理上手という事実が発覚した麻里亜から手料理を振舞われ、勇香はあまりの美味しさに幸福感溢れながら舌鼓を打った。

 その後三人は小規模なゲーム大会を開催し、モンスター捕獲&育成ゲームで通信対戦を楽しんだ。結果、麻里亜が少々姑息な手を使うも勇香が持ち前のゲームテクで二人を圧倒し優勝。勇香が眠気を催したことでゲーム大会はお開きになり、二人は自らの家に帰宅した。はずだった。それがどういうわけか、二人は今こうして勇香の家に居座っている。意味が分からない。

 勇香は脳内に溜まったクエスチョンマークの数々を一つに凝縮させ、聖奈に尋ねた。


「あの、その、どうやって私の家に侵入したんですか?」

「えっと、それは……」


 だがその質問には湯気の立った皿を運んできた麻里亜が答えた。


「そんなん、盗賊(シーフ)十八番の開錠魔法(ピッキング)でちょちょいのちょいっす」

「だっだめ!!早まらないで!!!ていうかこの世界から表日本の警察に通報はできないよ!!!」


 再びスマホのキーパッドを操作し始めた勇香を半泣きの聖奈が説得する。

 そこで吐かれた核心的な事実に、勇香は泣く泣くスマホを手放した。


「じゃ、じゃあ……どこに通報すればいいんですか?」

「お願い落ち着いて!私たちの話を聞いて!!」


 そう激しく動揺しながら口吐く聖奈。自分が落ち着けよと言い返したくなるが、一先ず彼女たちの話を聞くため勇香は席に着く。

 と、そんなトークを繰り広げている合間にキンコンと来訪者の鐘がなった。

 

「まさか……けけけけいさ……」

「違うっすよ。落ち着いてください」


 ぶるぶると戦慄する聖奈を他所に、勇香は席を立ち玄関へ降りた。


 一階に降りて玄関扉を開ける。

 扉を開けた先に誰がいるのかは、はっきりと分かり得る。その人物が、勇香にとって警戒に値すべき人物ではないことも。


「おっはー」

「おはよう!」


 玄関先で狐模様の耳飾りを揺らしながら陽気に手を振ったのは、灰色の髪の中性的な顔だちの少女。陽咲乃だ。


「大丈夫?迷わなかった?」

「ノープロブレム!ちょっと入り組んでたけどすんなりとたどり着けたよ!アタシ地図とか結構詳しいほうだから」

「そうなんだ」


 ふんすと胸を叩く陽咲乃に、ふふっと微笑する。


 何故陽咲乃は、朝早くに勇香の家にやってきたのか。昨日の帰り際。緊張交えた勇香が、一緒に登下校したいと決死の覚悟で頼み込んだのだ。すると、陽咲乃は……


『おーいいよいいよ。アタシもちょうど一緒に学校行ってくれる人探してたし!代表委員の仕事があるから毎日は無理だけど』

 

 と、すんなりと首を縦に振ってくれたのだ。代表委員の仕事のため初日は叶わなかったが、今日からは共に登下校できるという。


 ずっと一人ぼっちだった勇香に、一緒に登下校する友人ができた。その時ほど、勇香にとって悦ばしい瞬間はなかった。

 

 さらにせっかくだからと、陽咲乃が毎朝勇香の家を訪れることになったのだ。そういうわけで、陽咲乃は勇香の家を訪れた。はずだったのだが──


「あれ。靴多いけど、もしかして誰かいるの?」

「ちょっと、ね」


 立ちっぱなしの陽咲乃を見兼ねて勇香は中へ誘う。


「えっと、立ち話もなんだし」

「おっけーお邪魔しまーす」


 そう言って靴を脱ぐ陽咲乃。先客が誰かを確認せずに速攻中に入ろうとする様は、流石は学年の中心的存在だと思い知らされる。そのままリビングへ行くと、麻里亜と聖奈の二人がせっせとダイニングテーブルにスプーンやコップをセッティングしていた。一体何を……

 と、勇香と陽咲乃の視線に気づいたようで麻里亜が此方を振り向く。


「あ、ひさのんじゃないですか」

(しろがね)先輩に聖奈?何でここにいるんです?」


「分からない」


 家主さえも首を横に振ったため、陽咲乃は余計に謎が深まってしまう。一人ぽかんと首を傾げていた陽咲乃に、麻里亜は湯気立った食器をダイニングテーブルに置きながら一言。


「ひさのんが来たってことはもう一品用意しないといけないっすねぇ」

「も、もう一品……?あの、もしかして……」


 その言葉に、勇香ですらきょとんとしてしてしまった。そこにガラスのコップを数個持ってきた聖奈が事情を説明する。


「えっとね……あの後、麻里亜ちゃんがね。どうせなら()()朝ごはんを作り行こってあげようって提案したの。それくらいしないと勇香ちゃんの食生活は改善しないからって……」

「毎朝!?」

「私は勇香ちゃんに迷惑だって阻止しようとしたんだけど、その前に麻里亜ちゃんは買い出しに行ってて……」


「んなわけっす」


 軽い口ぶりで話を纏めた諸悪の根源麻里亜。だが麻里亜には思惑があった。

 度重なる陰口や嫌がらせ。それを喰らった勇香は一時、精神が決壊するまで追い詰められてしまう。

 しかし昨日のこと。麻里亜が知らない何らかの出来事が起こり、放課後の勇香は以前の活気差を取り戻すことができたように見えた。

 けどそれで安心してはいけない。この先の未来、勇香を脅かす存在が一人も現れないとは限らないだろう。

 勇香の心はまだ弱い。いずれまた今回のような事件が起こらないとも言えない。未来で起こるであろう脅威の数々。それらを勇香一人で乗り越えることは困難だと麻里亜は悟った。

 そのため理不尽な運命を叩きつけられた勇香に少しでも寄り添えるよう、勇香の体調、そして精神状態を随時確認できるようにしたかった。これは密偵としての性でもある。言ってしまえばメンタルケアだ。


 ──何もしてやれないじゃいけない


 ただ勇香の平穏無事を祈っているだけよりも、麻里亜は行動で示したかった。その最善の方法に選んだのは、毎朝の食事作りだ。これなら勇香の栄養管理も同時に行えるため、まさに一石二鳥。

 麻里亜と長い付き合いである聖奈も、麻里亜の思惑を勘づいていると思い込みこれまで話すことはなかったがどうやら見当違いだったようだ。だが勇香のいる前で口外できるはずがなく、とりあえず生徒会室で話そうと心に留めたのだった。

 当然、思惑を知る由もない勇香は納得できるはずがなく。


「あの、昨日夕食を作ってくれたことは素直に嬉しかったですけど、いくら何でも毎朝朝ごはんをご馳走になるなんてそんな……」

「まあまあ、反論したかったらボクの朝食を食べてから言ってくださいよ」


 そう言って勇香に着席を促す麻里亜。


「ひさのんは朝ごはん食べましたか?」

「えっ、いやアタシはいつも学園の食堂で食べてるのでまだ……」

「ならちょうどよかった。ひさのんも座ってくださいよ。丁度余りがあるので」

「え、アタシも食べていいんですか!?」

「もちろん」

「えへへ、じゃあこれから毎朝御馳走になろー♪」


 勇香はテンション高めに隣に座った陽咲乃の“毎朝”という言葉に耳を疑った。はぁと溜息を吐くと、勇香は自身の手前に置かれている丸底皿の中身を注視する。


「えっと」


 湯気立ったどろどろとした白い液体の中には見慣れない大量の雑穀が。添え付けられているのはマグカップに入った暖かい紅茶だ。雑穀の間には隙間を埋めるように、潰されたバナナや色とりどりのフルーツが散りばめられている。一見してシリアルのようにも見えるが、温かく粘り気がある時点で別物だろう。


「なんですか、これは……?」

「焼きバナナとドライフルーツのポリッ……西洋風ミルク“粥”です」


 麻里亜は粥と言ったが、勇香の知っている粥とはどうも根本が異なっている。


「これってお米じゃないですよね?」

「オートミールです。食べたことないですか?」


 そう尋ねられるが、勇香は首を傾げる。勇香の知っている朝食の主食と言えば、パンやご飯、シリアルくらい。

 その隣から叫び声とも言える大仰な声が上がった。


「嘘待って!?オートミールってめっちゃ健康にいいやつじゃん!!」


 一度食べてみたかったんだよねぇっと歓喜に満ちた表情でスプーンで掬ったミルク粥を口に運ぶ陽咲乃。案の定というべきか、陽咲乃は頬が零れ落ちるかのように幸せを顔で表す。


「そっす。ダイエットにもいいらしいですよ」

「うんうん!美味しいしこれなら毎日継続できそう……銀先輩レシピ教えてください!!」

「いいっすよ。めっちゃ簡単なので」

「やったー!」


 勇香は目を星にして燥ぐ陽咲乃に苦笑しながら、自らも両手を合わせミルク粥を食す。


「い、いただきます」


 陽咲乃の反応の通り、程よい甘みと新感覚な触感で美味だ。温かいミルクのスープは身体の心から温まる。味が薄いようにも見えたが、そこは麻里亜なりの工夫がなされているのだろう。


「美味しいです」

「よかった」

 

 勇香の笑みも交えた反応に、麻里亜はほっと一息ついた。


「で、どうすか?」

「毎朝とかは……流石に止めてください。せめて週三とかで」

「……まあいいっすよ。買い出しとか手伝ってくださいね」

「わ、分かりました」


 勇香は笑顔で了承する。それと同時に、麻里亜に感謝した。

 そのまま四人は和気藹々と朝の他愛もない会話に華を咲かせる。身近な世間話から趣味や好物の話、果ては学園都市街にある名店や表日本(向う側)での私生活等々。敢えて()()話を忌避するように、麻里亜や聖奈から次々と明るい話題を切り出す。家族団欒……とまではいかないが久しぶりに声のある食卓を囲めたと、勇香は喜色満面に頬を火照らせ。そんな時だった。


「あ、あのさ」


 陽咲乃が前振りもなく、話を切り出した。三人は揃って陽咲乃の顔を見つめる。


「急で悪いんだけど、せっかく生徒会の面子が三人も揃ってるから少し聞きたいことがあって」


「なんですか」

「どうしたの?」


 それには麻里亜と聖奈が応えた。勇香も無言で陽咲乃を眺める。


「えっとごめんね。こんなこと、楽しい食事の席でする質問じゃないんだろうけど……でも、どうせならはっきりしときたくて」


 だがその質問に、三人はわずかに眉をひそめる。


「結局さ、勇香ってなんで生徒会に入っちゃったの?」

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