第9話 私立勇者養成学園・生徒会
扉の先にいたのは、ソファに寝っ転がりながらゲームをする少女、そしてその少女に通信対戦で敗れたことで頭を抱えるセミロングの少女。
さらにさらに、一人で黙々と資料整理を行っている勇香よりも小柄な水色の髪の少女の姿。
そんな威厳の欠片もないやんわりとした雰囲気に、勇香は思わず膝から崩れ落ちてしまう。
「勇香ちゃん大丈夫!?」
「すいません、ちょっとめまいが……」
慌てたアリスが勇香を支え、うんしょと身を起こして立ち上がる。
そんな勇香にやっぱりねと苦笑した愛華は、振り向いて三人の少女に話しかけた。
「三人ともお疲れ様」
「会長!会長のSwitch借りてます」
「私のじゃないわ。それは、けいの物よ」
「そうですか。まあ相変わらず顔出さないし、別にいいですよね」
「データごと借りちゃってるけど怒られないかな」
「ま、(勝手に)殿堂入りまで進めたのボクですから、逆に感謝してほしいですよ」
薄灰色の髪の少女が、ふんすと鼻息を垂らして豪語する。
と、水色の髪の少女がその鋭い目つきを仁王のように寄せ、悠々とゲームをし続ける二人に近づく。
少女は一切無言のまま。しかし二人は少女の溢れ出る威圧感に委縮してしまい、ソファに縮こまる。
やがて、セミロングの少女がソファ前の木目調の応接テーブルにゲーム機を置き、
「じゃあ、また後でやろうか」
「そうですね」
その少女に続き、焦げ茶色の少女も軽快に声を掲げゲーム機を手放した。
その光景を見ず知れず、水色の髪の少女はやってきた愛華にデスク上にずらりと並べてある資料を見せつける。
「あら、今日の会議で使う資料、纏めてくれたのね」
「はい、ご拝読を……」
「ありがとう、でもその前に、転入生にあなたたちを紹介しなくちゃ」
「転入生、ですか……?」
少女がぽかんと首をかしげると、同じく愛華の声が耳に届いていた焦げ茶髪の少女が扉の前で棒立ちしている勇香に指を差す。
「あの子のことですか?」
その人声で、注目が一気に勇香へとむけられる。そのせいであたふたしてしまった勇香は、慌てて目線を隣にいるアリスへと向け、助けを求めた。
だがアリスは勇香のヘルプサインをあえて無視し、そのまま声を張り上げ、
「紹介しよー!こちらにおわすのが、勇者養成学園期待の新人!聖ヶ崎勇香ちゃんだよ!!!」
「ひぇ!?ひ、聖ヶ崎、勇香です……」
アリスの無慈悲な宣告に勇香は卒倒してしまうが、おずおずと極めて小さな震え声で自分の名を告げた。
すると、意外にも声が行き届いていたようで、奥にいた水色の髪の少女が口を開く。
「副会長、黒野妃樺、だ」
「ボクは交流担当の銀麻里亜っす!」
「書記の白百合聖奈だよ。よろしくね」
最後にそう名乗ったセミロングの少女は、にこりと聖母のような笑みを勇香に向けた。勇香は彼女の神々しい笑みに頬を赤らめ、小さく口を漏らす。
「よ、よろしくお願い、します……」
「勇香ちゃんの感情表現ってレパートリー少ないよね」
「な、何ですかいきなり……」
「そんなところで立ち尽くしてないで中に入りなさいな」
「さ、入ろ入ろー!」
「お、押さないでくださいよー!!」
愛華に促され、勇香の背中を両手で押しながら生徒会室へと入るアリス。勇香もそれに動揺しながらも足を進め、
やがて、麻里亜と聖奈が退いた山吹色のソファに勇香はちょこんと腰を下ろす。
そこへティーカップを載せたお盆を持った妃樺がやってきて、勇香の目の前のテーブルに湯気の立ったティーカップを置いた。
「紅茶」
「あ、ありがとうございます……」
紅茶を運んできた妃華に勇香は薄い礼で言葉を返すが、その後にギロリと向けられた視線にひぃっと息を漏らしソファに身を縮めてしまう。
見たところ、妃樺は自分よりも年下のようだがなぜこんなに威厳があるのだろうか。ただ単に自分がひ弱すぎるだけか。そう自虐しつつ、勇香はティーカップの脇に添えられていた粉砂糖二袋とミルクをドバっと紅茶に入れ、マドラーでかき混ぜてから一口啜った。
と、近くの無造作に物が詰められた棚の前に立った麻里亜が、振り返りざまに勇香に話しかける。
「勇香ちゃんはきのことたけのこどっち派?」
「えっ!?いや……特に決まってはないです……」
「お、平凡な応え。ボクはもちろんたけのこで……あれ、ない……」
ゴソゴソと大量のお菓子が入った黒箱を漁る麻里亜だが、目当ての物は入っていなかったようだ。
その後、麻里亜の横についた聖奈は無茶苦茶に荒れた箱の中を覗くと、クレーンゲームのアームの如くずぼっと手を突っ込む。そうして掴んだお菓子のパッケージを麻里亜に見せた聖奈。
「どっちも切らしてるね、申し訳ないけどこのお煎餅で我慢してもらおうか」
聖奈は数枚の煎餅が入ったパッケージをべりっと破り、棚の空き部分に置いていた厚底の皿に散りばめる。
それを見ていた麻里亜が再び黒箱をのぞき込むと、
「というか接待用のお菓子ほとんど切れちゃってますね」
「そろそろ新しいの補給しないとだね」
煎餅の抜けた黒箱の中には、中身の抜けたパッケージの殻が無残にも残っているだけだった。
「表日本からの供給は三か月に一回だから、そろそろ次の便が来るはずよ」
黒箱を覗く麻里亜と聖奈の傍に、愛華がそう口を漏らしながら歩み寄る。
それを聞いた聖奈はコクリと頷き、煎餅の入った皿を持って勇香の待つソファに足を運んだ。
「てか誰ですかこん中に残りカス入れた頭のおかしい人は!!ゴミはゴミ箱にぶち込むのが社会の常識なんですよ!!!」
「いやあなたでしょ」
愛華の鋭い指摘にしゅんと俯いてしまった麻里亜。
一方、一連の光景を眺め、何を言っていいのか事知れぬまま固まっていた勇香に、聖奈は頬に指を添えながら話しかける。
「ごめんね、いつもだったらたくさんのお菓子で歓迎してあげるんだけど、今日はこれしかなくて……」
「いいいいえ!!なんでも結構です!!!接待とか全然いいですから!!!!」
申し訳なさそうに苦笑を浮かべる聖奈に、勇香は焦り気味にブンブンと手を横移動させ、そう言葉を吐いた。
その後ろから、空気の読めないアリスが口を開き、
「えーゴディバはー?ダッツはー?シャネルはー?」
「アリスは少し自重なさい」
近づいてきた愛華が、騒ぎ立てるアリスに誅を加えた。
一方、アリスを戒める愛華の傍に立って黙然としている妃樺。
その少女の全身をよく観察すると、腰のあたりに何か長細いものが装着されているのが分かる。なんだろう、紅茶を啜りながらよく注視してみると──
(け、剣──!?)
思わず紅茶を吹き出してしまった勇香、
こちらを向いている細長く黒い柄の先には、先がとがった白く胴長の太いフォルム。この漫画のような世界で、戦闘漫画に少しでも触れている者ならそれを容易に言い当てられるだろう。
何気に勇香はここへ来て初めて、ファンタジー世界の小道具をその目で見た。
と、妃樺は自らの華奢な身体に突き刺さる勇香の視線に気づいたようで、
「……ひぃ!!!」
妃樺に再び鋭い視線を向けられ、勇香はびゅんと振り返る。その後、テーブル上のティッシュ箱から数枚取り出すと、それらを服の濡れた部分に押し当てた。
そこに、紙束を抱え込んだ愛華がテーブルをはさんだ勇香の真向かいのソファに腰かけ、口を開く。
「剣の事ね。妃樺は剣士だから、常に剣を装備しているのよ」
「そ、そうなんですか……」
「ていっても、校内で帯剣している人は珍しいけどね」
後ろからアリスがそう漏らすと、今度は妃樺の射るような眼刺しがアリスに向けられた。
それでももろともしないアリスに、勇香は凄いなぁと関心しながら眺めていると、
「さて、じゃあかなり質素だけど、歓迎会を始めましょうか。改めて生徒会のメンバーを紹介するわね」
そう言って愛華が立ち上がると、ソファ越しに並び立った三人を順に紹介し始めた。
「まずは、副会長の黒野妃樺よ。職業は剣士。あなたと同じ一年生だから、何かあったら相談しやすいと思うわ」
(く、黒野さんに相談するなんて無理いいいいい……!!)
愛華の言葉に妃樺が一礼すると、今度は中央にいる焦げ茶色の髪の少女に手を向けた。
「彼女は二年生の銀麻里亜。生徒会の役職は交流よ。主に生徒と裏日本の人々との交流を斡旋することが彼女の役目ね。職業は盗賊で、学園一のスパイとまで称されるほど諜報活動が得意。麻里亜は裏日本中にいろいろなコネクションがあるから、これはあなたにはまだ先の話だけど、遠征に行く時とかに相談するといいわ。あと、彼女のスキルで魔王軍への潜入調査もしているわね」
「そっす!」
さりげなくとんでもないことを言い放った愛華に、勇香は目を丸くして麻里亜を凝視する。
「最後に、書記の白百合聖奈。職業は賢者。彼女もあなたと同じ一年よ。後、端的に言うと神ね」
「それは言わなくてもいいんじゃないでしょうか……」
「は、はぁ……」
どういうことだろう。聖奈の性格が神のように慈愛に満ちているということか。
まあ、さっきまでの心遣いや眩しい笑みを浴びれば勇香もそう表現してしまうだろう。
だが、あの愛華がそんな台詞を言うか?と疑問視していると直ぐにそれが晴れた。
「文字通りの神様よ」
「えっ?」
「え、えっと!ちがくて!いや違わないけど!は、半神って知ってるかな?昔色々あって、身体の半分が神化しちゃって……って想像できないかぁ……もっと砕けた感じに言えば……神になった人間、いや、人間だけど神……?」
「ようするに神人間ってことっす」
(?????)
きっぱりと言い切った麻里亜だが、その発言で脳に入ってきた情報は雀の涙も乏しく、勇香には苦笑いで対処することしかできなかった。
「わ、私のことはいいので話を続けてください!」
恥ずかし気にそう言い吐く聖奈に、愛華はふふっと笑いながら話を元に戻した。
「分かったわ。あと今は……というか生徒会室には滅多に顔を出さないけど、会計の朝桐 荊蛇。職業は弓使いよ。もし見かけたら挨拶してあげてね、っていっても顔が分からないか」
「は、はぁ……」
そして、改まって勇香の眼前で立ち上がった愛華。妃樺や麻里亜が場を退くと、視界が愛華一点に寄せられた。そのまま愛華は胸元に手を当てて声を掲げる。
「そして、私は生徒会長の椿川愛華。職業は盾使いよ。よろしく」
「よよよ、よろしくお願いいたします!!!」
愛華の自己紹介に、ブンと頭を下げて応じた勇香。
再び頭を上げると、愛華は元通りソファに腰を掛けており、温和な表情で勇香に問いかけた。
「なにか、質問はあるかしら?」
「あ、あの……」
「何?」
「あの、さっきから言ってる盗賊とか剣士ってなんなんですか?」
勇香から放たれた純粋な疑問。
愛華は生徒会メンバーの紹介時、流れのまま職業は、などと話していたが、勇香にはそれが何を意味するのか全く分からず、ずっと放心したまま耳を傾けていた。
途中で説明を挟んでくれるとしばらくは聞き流していたものの、一向にその気配はなく、
もしかして学園入学時に必要な予備知識なのだと自己解釈してしまい、聖奈の神か否か議論が終わったあたりから勇香の心境は荒れ狂ったように焦燥していた。
そして今、分からないのなら聞け!っと、昔度々口ずさんでいた歴史の担当教師の言葉を初めて実践し、もれなくその場にいる勇香以外全員の目が点になった。
それは目はまさしく、何で知らないの?と暗喩しており、その瞬間勇香の焦燥した感情は一気に震撼へと昇華し、
勇香はなんで教えてくれなかったの!?という目で背後のアリスを振り返る。だが、その前に水色の髪の少女が口を開き──
「職業も分からない……お前は、阿呆者か?」
「すすすすす、すみませんんんんん!!!!!」
勇香は勢い余ってソファを立ち上がり、土下座を決め込もうと開けた床に移動を開始する。しかし、寸でのところでその身体をアリスが取り押さえ、深呼吸!深呼吸!とのアリスの指示の元、深く息を吸ってソファにでれんと腰をおろした。
「妃樺、知ってたのはあなただけでほとんどは知らないまま入学するのよ」
「失礼しました」
「ごめんなさい。新入生は入学時に職業ガイダンスっていう時間を取って担当教員の方から説明があるんだけど。転入生は数か月ぶりだったから、そうね、それは知らないわよね」
「い、いえいえ」
「じゃあここで課外授業として、無知蒙昧でなーんの知識もない本当に義務教育受けたの?レベルな勇香ちゃんにアリスちゃんが職業について伝授しちゃおー!」
と、くるりと半周し愛華の座るソファの背後に立ったアリスが過剰摂取もいいところの煽りを交えつつ、勇香に「職業」という言葉の意味を軽快に語り始めた。
「な、なんでそこまで言うんですか!?」
「まあでもサブカルに詳しい勇香ちゃんならすぐに分かっちゃうよ!職業って言うのは戦闘において剣、弓、槍とかの武器や特定の戦術、専門の魔法みたいなのを使うそれぞれの役職の総称の事。例えば、ふくちょー君は剣を扱う剣士。まりあんは戦闘よりかは諜報とか妨害専門の盗賊。書記ちゃんの賢者はちょっと特殊なんだけど、主に後方での魔法支援や治癒魔法を放つ役職、みたいなね」
「ドルクエみたいですね」
「職業はいっぱいある中から自分がなりたいものを一つ選べて、その都度転職も可能だから、軽い気持ちで選べばいいよ。この学校には三年間の間だけだけど、剣術とか槍術みたいな、主要な職業に必須な能力を集中的に学べる講義があるから。それを受けてから考え直してもよし!」
「ちょうど生徒会室に職業図録があるから事前に決めてみてはどうかしら?」
そう言いながら愛華が腕の中に抱え込んできたのは、教科書ほどの厚さのある茶色い本。
「職業図録って言うの。この中に現在登録されている全ての職業が載っているわ」
愛華に職業図録を渡され、ありがとうございますと受け取る勇香。ざっとぱらぱらめくってみると、その職業の図や説明がずらりとページいっぱいに並んでいた。
「い、いっぱいありますね……」
「あ、入学したてではなれない職業もあるから気を付けてね」
勇香の隣に座り込んだ聖奈が、職業図録を覗きながらそう語りかけてきた。
勇香はそれにはいと応じつつ、一ページ一ページ漏らすことなく閲覧する。
最初はMMORPGのジョブ選択みたいと興奮していた勇香だが、
「どの職業も、体力のない私には無理そうです……」
この世界はファンタジーのようであっても所詮現実世界だ。
武器や魔法を扱える力量や相応の運動能力がなければ職業なんて到底務まらないだろう。
とは言っても、別段勇香は運動が苦手というわけではない。
幼い頃、超人的運動神経の妹としょっちゅう家の庭や近くの川辺の土手でボール遊びを行ってきたためか、人並みくらいには運動神経はある方だ。
ただ、体力のなさだけは一向に克服できず。
疲れやすいというか、長時間運動することが苦手なのだ。
もちろん運動部にも入っておらず。
そんな情けない自分に、今更だが本当に勇者になれるのだろうかと二度目の自虐をしてしまう。
「た、体育系の実習を取れば体力を上達させることはできると思うけど、もし嫌なら魔法職とか遠距離攻撃職、後方支援職を選ぶといいわ」
そう髪を耳に掛けながら、勇香の膝に載せられた職業図録のページをめくる愛華。
めくられたページには、魔法職と書かれた見出しから、魔術師や回復術師のような職業が名を連ねていた。
「こ、これなら私でもできそうです」
「うんうん。アリスちゃんから言わせてもらうと、勇香ちゃんは武器を振り回すより魔法をめいっぱい使う方が向いてるとおもうよ。運動神経は別としてね」
「え?そうなんですか」
「確かにそうね」
アリスに続けて愛華も頷いて応えるが、勇香にはその意味が分からずぽかんとページを眺めていた。
魔法職に続けて、遠距離攻撃職や後方支援職の項目を読み込んだ勇香。
そのままページをめくると、テイム職や特殊職という項目が続き、最後はその他という項目だ。
その項目は他までとは異なり、図や詳しい説明は一切なくただ簡素な説明だけが記されていた。それを疑問に思っていると、
「この歌い手とか姫君ってなんですか?」
「あー何年か前に妄想癖のある生徒が追加したって聞いたことがあるよ。職業ってその気になれば生徒でも追加できるからねぇ」
「え?いいんですかそれ」
「生徒の自主性を尊重するって言う学長の指示で新職業の公募が始まってね、当然そのための学長による審査もあるんだけど」
「よく審査通りましたよねその職業」
真顔でそう話し、勇香と共に説明を注視する聖奈。
そこには、勇者たちの英気を養うための職と記載されている。
本当に必要なのだろうか?わざわざ職業なんかにしなくても勝手にそこらへんで歌ったり踊ったりすればいい話では……と、なかなかに辛辣な思考をする勇香は、よく学校で昼休憩になるとクラスメイトたちがしきりに動画サイトのショート動画用に謎の踊りを踊っていたことを思い出し、自分の《《黒歴史》》と共に胸がむずむずしてきた。
「そもそもアイドルって……マイクだけでどうやって魔獣と戦うのかしら。あんな小さい武器?で叩いても大してダメージにはなれなさそうだし、何よりあのフォルムだと魔獣に接近しすぎて逆に危険じゃ……」
そう呆れ気味に考察に耽る愛華は、おそらく説明を深く読んでいないのだろう。
「極端に歌唱力のよろしくない人だったら、自分の歌声を魔法とうまく掛け合わせて魔獣の鼓膜をぶち破る攻撃法とかができそうだけどね~」
「某リサイタルより酷いです」
同じく説明を見ていないであろうアリスに、勇香は細い目で言葉を付け足す。
同時に、カラオケの際にクラスメイト中をざわめかせていたあの男子生徒ならいけるかも、という発想にも至ってしまった。
「一応説明では、みんなを癒すためってなってますね」
と、ソファの背後で勇香と聖奈の間にズボっと首を突っ込んだ麻里亜が勇香の顔を伺って尋ねる。
「なりたいんですか?」
「え、いやそういうわけでは」
顔を俯いて、再び職業図録を熟視せんとする勇香。
だが、そんな努力もどぶに捨てられたように、残っている職は本当に審査を通ったのかと疑問視してしまうほど、ふざけ半分遊び半分のようなものばかりだった。
その時、突如として瞳をキラキラさせた勇香は、思わず声を張り上げ、
「魔法少女!!これなら妹を……!」
「勇香ちゃん、その職業を選択しても願いは叶えてくれないよ」
「それ申請した人、完全に影響受けてますよね」
あははと苦笑する聖奈に、ですよねとため息をはく勇香。
間でぽかんと押し黙っていた麻里亜は、ぼんやりと視線を愛華に移した。
「それで、なってみたい職業は決まった?」
「えっと、多すぎて、まだ……」
「そうね、また学園都市街へ行った後にゆっくり考えればいいわ。それより一つ、あなたに提案があるんだけど」
愛華にそう切り出され困惑してしまった勇香は、おじおじと聞き返す。
「な、何でしょう……」
だがその提案が、勇香の思考回路をさらに混沌とさせた。
「あなた、生徒会に入らないかしら?」
「へ?」
一瞬嘘だろうともさえ思ってしまったその提案。
しかし、愛華の目は、嘘など微塵も感じさせないほどきりっと輝いていた。
すみません。ファンタジー職業について1から説明をするのがムズすぎました……分かりづらいようでしたらコメントください!