公園で
かくれんぼはまだまだ続く。
公園の遊具の中で男が目を覚ます。レジ袋から伸びた小さな動かない手を握っていた。慌てて手を離し袋を隅に追いやる。
意識が朦朧としている。街灯の下で腰を下ろして記憶を整理する。警察から逃げていること、殺した彼女の死体を別の場所に移さないといけないこと、さっき持っていたレジ袋もどうにかしないといけないことを思い出した。そして極度のストレスから、それらを済ませる前に「かくれんぼ」と呼ばれていたドラッグをのんでしまっていたことも。
公園の砂場に隠す案を思いついたのは良かったが、この日は運悪くガラの悪そうな中学生か高校生がたむろしていて隠すことができなかった。そこで彼らが立ち去るのを待つために、遊具の中に息をひそめていたのだった。
しかし、うだるような暑さと袋から立ち込める腐臭とで頭がおかしくなりそうだった男は、不安を一時的に取り除いてくれると評判だったドラッグに手を出してしまった。それを飲むことがどれだけリスクがあることか冷静に考えれば分かっていたはずなのに、男は我慢することができなかった。
ドラッグの効き目がなくなってようやく、忘れたかった記憶と一緒に現実に引き戻された。公園には誰もいなくなっていた。男はカラカラに乾いた喉を潤すため水を飲んでから仕事にとりかかった。
「はやくこいつを埋めないと」
「見いつけた」
砂を掘る男の耳に彼女の声が聞こえてきた。殺して冷蔵庫の中に隠しておいたはずの彼女の声が。声のした方を見ると、腰から上だけの青白い彼女が砂場近くのジャングルジムから男を見下ろしていた。
驚いた男は袋を捨てて遊具の中に隠れた。だが、どこに隠れても彼女は暗がりの中から飛び出してきて男に迫ってきた。
「どれだけ待てばいいの? もう産まれちゃったんだよ!」
「お前が勝手に産んだんだろ! もう俺に付きまとうなよ!」
どこに隠れても彼女は追いかけてくる。かといって公園から外に出れば警察に見つかるリスクがある。どこにも逃げ場がなくなった男はやけになってもう一度あのドラッグをのんだ。殺したいなら俺が寝ている間に好きにすればいい、と。
強烈な眠気に視界はぼやけ、男を責め立てる彼女の声も遠くなっていく……。
そして再び男はお誕生日席に座っていた。長いテーブルについていたのは男だけで、周囲では子供たちが無邪気にはしゃいでいた。男はこの子供たちのことをすっかり忘れてしまっていた。
朝が来るまで無為なかくれんぼは続いた。男は夢と現実の区別がつかない障害を負い、彼女を殺した動機を警察は聞き出すことができなかった。