おうちのなかで
かくれんぼはまだまだ続く。
男はお誕生日席に座っていた。長いテーブルについていたのは男だけで、周囲では子供たちが無邪気にはしゃいでいた。男はこの子供たちのことを知らなかった。
「そこすわらないで! パパのイスじゃないじゃん!」
「パパ……?」
「ねえ、はやくかくれんぼしようよ! すわってたパパがオニね!」
「かくれろーー!!」
断る間もなく男は勝手に鬼に決められてしまった。他にやることもない男は仕方なく付き合ってやることにした。壁に向かって数を数える。
「……九、十。もーいいかい?」
「もういいよー!」
広くはない一軒家の中を隈なく探す。しかし十人ほどいたように思えた子供たちはどこにもいなかった。さては家の外に隠れたな、と考えた男は玄関に向かう。しかし扉は何をしても開かなかった。そこでようやく夢の中にいることに気づいた。
「まさか、あいつら全員見つけるまで目が覚めないなんてことないよな」
独り言を言って肩を落とすと、女性ものの靴の中で何かが動いたのが視界の端にうつった。気になって靴の中を覗いてみると、なんと中にはさっき見た子供がいた。子供は靴のサイズに合わせて小さくなっていた。
「ここなら見つからないと思ったのにな!」
そう言うと子供の姿はパッと消えてしまった。
「なるほどな。夢の中だからありえない場所でも隠れられるんだ」
靴は付き合っている彼女に買ってやったものだった。彼女に関係している物の中に子供たちが隠れていることに気付いてからは、手際よく隠れている子供たちを見つけていった。カレンダーの裏側、喧嘩で割って捨てたはずのコップの中、避妊具の箱の中、友達から貰ってきたというおさがりの服の山の中、仕切りを取り外した冷蔵庫の中……。
子供たちを見つけるたびに不思議と現実の面倒なことも次々に思い出していった。今まで気にしていなかったのが不思議なくらい差し迫ったこともあったが、男にはなぜか他人事のように思えた。男は記憶を無視して鬼を続けた。
最後の一人は結婚情報誌を開いた中に見つけた。見つけた途端、男が見つけては消えていった子供たちがどこからともなく現れ、綺麗にラッピングされた箱を差し出してきた。
「おめでとうパパ!」
男は嫌な予感がしていたが箱を開けた。中に入っていたのは生まれたばかりの赤ちゃんだった。赤ちゃんは男の指をその小さな手で握ってきた。