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婚約者の裏切り(1)

 第一王女の心変わりにより、四大公爵令息たちは、ある日突然『王配の予定を白紙』にされたのである。


「国を出ていくだけなら気兼ねしないだろうな。残された者からすれば迷惑千万」

「おい、ランベルトに酒を飲ますな。発言が危うくなる」


 ノエルが慌てグラスを取り上げた。空いた手にフランシスが水の入ったグラスを握らせる。

「面白くなると思ったのに、残念ですね」

 クスクスと笑いながら、ルカはシャンパンをひとくちで飲み干した。


「ランベルトさんが不満をぶちまけてくれたんなら、スッキリしますのに」

「煽るのはよくないよ、ルカ。不敬で首が飛んだらどうするんだい」

「ウチみたいな商人上がりの新興貴族ならそうでしょうね、ノエルさん。ですが、ランベルトさんのような筆頭公爵家なら言えるはずです」


 揶揄うように場を乱すのは、ルカの悪い癖だ。誰も取り合わないのにランベルトだけが突っかかるので、少々厄介である。


「そういった政治的な話は別の機会にしよう。ルカもランベルトもノエルも、バルコニーで風にでもあたってくるといい。人払いしておくから」

 水と油に挟まれるコースへドナドナされそうになり、ノエルは飲み物を吹きだしそうになった。ひどいよ、フランシス! と抗議の声が聞こえてくるようだ。


「この晩餐会自体が政治的な意図を含んでいるのに、忌避するなんて面白いですね。実に面白い」

「やはり一言、王家に物申さねばなるまい!」

 ケラケラ笑いだしたルカに、めずらしく同調するランベルトは、完全に酔っぱらっていた。

 ふたりとも、第一王女が他国に嫁ぐことを快く思っていないのは明らかだ。


「こんな時だけ意気投合するなよ。なにも分からない歳でもないんだ。いい加減にしておけ」


 仲裁役がノエルなら、いさめるのはフランシスの役目である。


 シーズンはじめの舞踏会は、毎年必ず王宮が開く。今年は帰還した第二王女のお披露目も兼ねて大々的に催す予定だったが、いろんな事情が重なって難しくなった。

 なにもはじまらないのでは外聞が悪い。とりあえず公爵家主催の夜会や晩餐会が催されれば多少の時間を稼ぐことができる。

 さらに国の礎となる四大公爵が積極的に盛り上げてくれたなら、国内は盤石であると知らしめることもできるのだ。

 帰還した第二王女はアマンド国より嫁いできた第二后妃の産んだ姫であり、国境を隔てて隣接するジェラト公爵家は、后妃の輿入れから縁故にしてきた。

 そのためジェラト公爵家が先陣を切って、晩餐会を開くことになったのである。


「全員が事情を知ったうえで今日の参加を決めたんだろう。グチグチと文句を垂れるのは筋が違うんじゃないか?」


 三人とも押し黙ったので、一応は理解しているようだった。

 ただ、四人から王配をひとり決めるという約束は、これまで彼らにあらゆる制限を強いてきた。

 清廉潔白で過ごすことがイヤになったのなら外れればいいだけだが、当人たちの感情でひとつで決められるような話でもない。

 家の都合や派閥によるしがらみで、全員がこの歳まで待たされたのだ。

 せめて四人から選んでくれたなら、思い描いた結末のひとつを受け入れて終わるはずだった。

 やるせなさと、困惑と、突き放されたような寂しさと。次いで不満と怒りが湧くことが、どうして間違っているなどといえるのだろうか。


「仕方ないというのは、心苦しいが――」

 フランシスの言葉は、周囲の喧騒にかき消えることなく静かに届いた。


「もう決まったことだと、割り切るほかないと思う」

 全員がわかっていることだった。ただ、納得できずにグズグズと抜けだせずにいるだけなのだ。


「さて、私は招待した部下を歓迎してくる。実は先ほどから気になっていてな。失礼」

 大股で会場を横切り進む先をみて、ノエルがおやと、身を乗りだす。


「どうかしたんですか、ノエルさん」

「あのふたり、僕の領の子たちだ。シルフォン伯爵家のご令嬢だよ」

「へぇ、よくこの距離で分かりましたね」


 ****


 コレットとアンリが会場入りすると、すでに大勢の招待客で賑わっていた。招待主のフランシスを探していると、遠くのほうで客人と話し込んでいる姿があった。

 少し時間をあけてから挨拶しようと決めたふたりは、待っているあいだにフロアの一角に設置された軽食の並んだテーブルの前で、どちらともなく足を止めた。


「――美味しそうね」

 思わずゴクリと喉が鳴った。


「――そうだね、姉さん」


 アンリは、体作りを優先していて、嗜好品とは縁遠い食生活をおくっていた。

 コレットは、ミアの厳しい食事管理下にあったため、バターと砂糖に縁遠い生活をおくっていた。

 つまり、姉弟は久方ぶりのあまい誘惑に遭遇してしまったのである。


「私ね、食事は一日に三回が普通だって知って、驚いたのよ」

「僕も、騎士団の食事が一日三回だったから、絶望したんだ」


 巨漢を維持するには、それなりのカロリーが必要である。周囲がかわるがわる食べ物を与えるせいで、一日の食事は最低五回におやつが三回あるのだと思い込んでいたのである。


「晩餐会前にだされる軽食は、可愛いサイズで、――いいわよね」

「マカロンもひとつだけなら少量だし、――いいよね」


 アメジストのようにキラキラと輝きだした四つの瞳は、テーブルの上の軽食に釘付けだ。

 ひとつくらい食べても大丈夫なはずだ。あとは相手が誘ってくれたなら、仕方ないと便乗する気満々である。


「やあ、アンリ。声を掛けるのが遅くなってしまって、すまなかったね」

 間一髪のところで、フランシス・ジェラトが登場し、姉弟はあまい誘惑から逃れることに成功したのだった。

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