サクランボにキスの話はいかが?(2)
全3話になりました!
今日のコレットは、なんだか様子がおかしい。
想い人の少しの変化を目聡く拾ったフランシスの脳裏では、あらゆる可能性が駆け巡っていた。
もちろん、気付かないふりをして笑顔で会話をつづけてはいる。今のところは。
「そういえばレティシア殿下が、宮廷植物園に果物を植えだしたと耳にしました」
チラリと視線を向けると、コレットは頷いて返していた。
「その評価がまっぷたつに割れて、少々騒がしくなるかもしれません」
「え?」
苺を植えたことをレティシアがコレットに報告したのは、つい先日のことだ。
宮廷植物園に足繁く通い、春の女神の権能を存分に使いこなす第二王女に、一体なんの不満があるというのか。
「その、どういった意見があるのでふか?」
思わず聞き返したせいで、舌先ズキリと痛んでコレットの発音がおかしくなった。
慌てたものの、レティシアの話は聞いておきたい。コレットは、できるだけ少ない単語で返答することに決めた。
「どんな植物にせよ興味を持つのはよい傾向だ、という意見が大半です」
それはとても良い話なので、笑顔で頷いておく。
「ごく少数の者は、宮廷植物園に果物を植えるのはいかがなものか、といっています」
「!?」
苺だって小さな白い花が咲く。
大半の植物は種を成すために実を結ぶし、いくつかの種類を人が食すだけではないか。
飛び出した反対意見を、呑み込んだら、代わりにコレットの眉根が不満を主張していた。
「そのように、お怒りにならないでください。――実は身近なものが私に零していた話です。今のところは殿下が悪目立ちしているわけではありません」
ボヤいたのは、ランベルトである。
わざわざ騎士団に立ち寄り、フランシスを呼び出して相談という名目で声をかけてきた。
大方、周囲に同意を得られず、やりきれなくて愚痴を聞いてもらいにきたのだろう。
「大丈夫だとは思いますが、念のためお耳に入れておいたほうがよいかと思いましたので」
「ありがとうございまふ」
またも舌先が痛くて発音が狂った。それでも今は言い掛かりのような反対意見を、どう跳ねのけるかが問題だ。
いっそ、果物エリアをつくってしまったらどうだろうか?
面白そうなので今度の女子会で話題にあげていみよう。
心の声が活発になるほど、コレットの反応は大人しく微笑むだけになっていった。
相手がカロリーヌであれば、また心の中で考え込んでいるのだと察してくれるが、横に立つのはフランシスである。
今日会ったときにもった違和感が不安に変わり、あらぬ想像を膨らませていた。
(この手の殿下の話を聞いたら、こちらが戸惑うほどに反論してくるのに。口数も少ないし、言い淀んで、なにかに遠慮しているのか?)
想いは伝えあった仲だが、逢瀬は数える程度しかしていない。
今はまだ、互いの性格や好みをゆっくりと知りあっている最中なのだ。
思い切って問いかけてみる。
「今日は、いつもより口数が少ない気がします」
きょとん、とコレットは不思議そうな顔をしている。
とぼけているのか、本当に自覚がないのか。フランシスには判断ができなかった。
(――心の距離を感じる……気がする)
こちらが油断しているときに、不意に心を掴んでくるのがコレットである。
正直なところ、フランシスもそれで心を奪われたのだ。
(――どうして……)
ふたりで過ごすとき、確かに静かな時間を楽しむときもある。だが、フランシスの話題に、ここまで反応が薄いのははじめてな気がした。
(今さら距離をとるなどと、どういう――)
すぐに思い浮かぶはジルベールの存在だった。
さすがにどうかと思ったが、なら別の男がちょっかいを掛けているということだろうか。
自分の婚約者は麗しく、しっかりしているようで実は隙だらけなところが可愛らしい。
横恋慕する男共がでるだろうことは予想していた。
問題なのは、フランシスがまだ正式な婚約者ではないということだ。
諸々の事情で婚約の約束をした相手でしかない。
これらを理由に、ワンチャンあると考える輩がでたとしたら――
(毎週末のデートに、アンリの協力では、不足だったということか――)
事実であれば早急に手を打つ必要があるだろう。
「なにか、言いづらいことがあるのではないですか?」
「っ!?」
責めないように、できるだけ穏やかに聞いたつもりだったが、内心は声色をおさえるので必死だった。
コレットが思いのほか動揺をみせたせいで、悪い想像が確信に変わる。
「怒ったりしませんから、正直に話してください」
「――あの、っ」
舌先が痛くて言葉を詰まらせるコレットの姿が、都合の悪い事情を誤魔化そうとしているようにしかみえない。
突然詰め寄られたコレットは、理由もわからず焦りだしていた。
3話目は明日更新します!
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