とある昼下がりのお茶会
とある昼下がり。
トルテ城の一室では第二王女レティシア・ド・トルテ主催のお茶会が開かれていた。
シルフォン伯爵令嬢コレットとショコル子爵令嬢カロリーヌの三人で、今日も姦しく盛り上がっている。話題は、彼女たちの心をとらえて離さない、ランジェリーについてだ。
「それでね、カロリーヌお姉さまが用意してくださったランジェリーは着心地がよくて疲れないの」
「レティシア様の体形的には、ハード仕様のコルセットは不要だわ。でもトルテ国のドレスだとガードルを履く方が体のラインは美しくみえるので、やはり装着はしたほうがいい。それでソフトなタイプを作ってみたのよ」
「アマンド国にはコルセットなどないので、どうして必要か分からなかったのです!」
「あちらは年中暑い国だし、オーバーサイズの服や露出の多い服を着るものね。ランジェリーも通気性を重視して最低限のみだし。トルテ国は寒さ対策で密閉したデザインになりがちだし、着膨れた姿を細くみせるために、コルセットでくびれを作りたがるわ。防寒効果もあるから定着したのかもね」
レティシアが目を丸くして、カロリーヌの話に前のめりに聞き入っている。
「ただトルテ国で流通しているコルセットはハードすぎて、負担が大きいのも事実だわ」
「さすがカロリーヌね。そういう問題をすべてクリアしたものを開発してしまうのだもの」
「ええ、どこかの誰かさんが、私の目標をどんどん上げてくれたおかげで、見事なランジェリーとコルセットとガードルを生み出せたわ」
「まぁ、その人凄いわね」
カロリーヌが、コレットを睨む。
「あなたのことですけど? そのメロン大の胸を支えて形作るために、どれだけの工夫がされていると思っているのよ!」
痩せる前はスイカ大であったコレットの胸は、カロリーヌの試行錯誤をいつだって無残に踏みつぶしてくれたのである。
その柔らかさを伝えんばかりに盛り上がったふたつの山は、カロリーヌの弛まぬ努力の先に辿り着いた、至高の形であった。
「はい! 胸当て付きコルセットは、谷間を作るのと、全体の高さをだすのと、上部分を膨らませるという用途で、形が異なります」
「どれがどの形か覚えていて?」
「えーっと、えっと」
「はい、出直してらっしゃい」
レティシアは、今日も会話に飛び込んで撃沈する。
最近この掛け合いのような風景が定着しつつあった。
「でも、わたくしは一種類しか持っていないのです。他のはどうして必要ないのですか?」
「それはね――」
事細かな説明に入れば、コレットは静かにフェードアウトする。技術談義はマニアックすぎて、ついていけない。
(ああ、レティシア様。普通の令嬢はそのような技術まで知りえないのですよ。どこに向かっているのか心配だわ)
楽しそうにカロリーヌから知識を吸収するレティシアは、夕方に知恵熱がでて具合を悪くするだろう。
「う、うっうっう……」
制止すべき侍女セレサは、毎度のごとく感動して役に立たちそうにない。
(どうか、どうか、平和に穏便に日々が過ぎていきますように)
不安でいっぱいのコレットは、お茶会のたびに、そう願わずにはいられないのであった。
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