ドキドキ初デート!
その日、シルフォン伯爵家は朝から準備におわれていた。花瓶の花は取り換えられ、ファブリックも一新し、最後の仕上げにと、もう何度も磨いたはずの調度品を乾拭きしている。
もうすぐ、家人全員が愛してやまないお嬢さまに、意中の男性が会いにくるのである。
七年越しの婚約者に裏切られて引き籠り生活になった日から、ようやくの春の訪れに、邸中が歓喜に包まれていた。
本日の主役であるコレットは、前日まで悩み抜いたドレス姿で、ずっと鏡の前に立っている。
「ミア、どうかしら。おかしなところはない?」
全身を確認しながら、控えているミアに何度も聞いた。
「大丈夫ですよ。綺麗に仕上がっています」
「あちらのクリーム色のドレスのほうがいいかしら?」
「昨日試着されたとき、膨張色だから絶対に嫌だとおっしゃってました」
なにを着ようと別のドレスに目移りする。これではいつまでたっても支度が終わらない。
「もうじきフランシス様が到着する時間です。玄関ホールでお出迎えしましょう」
「だめ、緊張するわ」
「なにを弱気になっているのですか。デートなど、はじめてじゃないでしょうに」
「違うのよ、全然違う」
「はい?」
「前のは家族みたいな感覚だったから、こんなにドキドキするのは、はじめてなのよ!」
「!?」
まさかの恋愛初心者発言に、ミアは開いた口が塞がらなくなった。
どうにか不安を取り除こうとしたが、なにをしても効果はなく、むしろ意識した分だけ緊張が増していく。
時間より少し早く到着したフランシスを、カチコチに固まって少々挙動不審な様子のコレットが出迎えたのであった。
最初こそぎこちない様子のコレットだったが、徐々に緊張はほぐれていった。
今は、頭や顔まわりに熱が集まり、ふわふわした不思議な感覚に包まれている。
「コレット様。こちらはフランシス様がお土産にお持ちくださったケーキです」
「まあ、お気遣いありがとうございます。フランシス様」
ワゴンには、ガトーショコラ、ショートケーキ、モンブラン、チーズケーキ、フルーツタルトなど、たくさんの種類のケーキが並んでいる。
「なにが好みか分からなかったので、全種類包んでもらいました」
「コレット様、おひとつ選んでください」
さりげなく、ミアが食べすぎ注意を促してくれている。
(チョコレートが一番好きだけど、イチゴも好きなのよ。できれば全部ひと口ずつ食べたい)
残念ながらミアの忠告は届いていない。
「決めきれないなら、ふたつ選んでください。私とシェアしましょう」
「なら、ガトーショコラとイチゴのクリームタルトでお願いします!」
目の前に置かれたガトーショコラにフォークを入れる。口内でとろりと溶けたチョコの味に、思わず至福の笑みがこぼれた。
(あまいものは、たまに食べると何倍も美味しくなるのね。幸せだわ~)
とろけるコレットを楽しそうに眺めていたフランシスは、次はイチゴタルトを食べるか尋ねた。
「はい、いただきます」
「では、――どうぞ」
てっきりお皿を交換するのだと思っていたのに、彼はフォークにひと切れ刺して、コレットの口元に差しだしたのだ。
「ふ、フランシス様?」
「弟とは、こうやってシェアするのでしょう?」
あれは幼少期からの癖みたいなもので、今はそういったことはしないので違うのですと、モゴモゴ言い訳したが、フランシスは譲ってはくれなかった。
真っ赤になりながら、フランシスの持つフォークからケーキを食べたが、羞恥心で味はさっぱりわからなかった。
「次は私にも、いただけますか?」
「っ!」
頬杖をついたフランシスが、期待の眼差しを向けている。
要望に応えるべく、震える手でガトーショコラをひと切れフォークに刺して、ゆっくりと彼の口元へと運んだ。パクリと食いつく姿をみせられて、体が茹であがる。
「――とても、あまいですね」
「そ、そうですね」
ケーキも、雰囲気も、なにもかもがあまったるい。
思わずコルセットで締め上げた腹部に手を伸ばすと、在りし日の悲しい思い出が脳裏によぎる。
(た、食べすぎてはいけないわ。もう二度と、同じことを繰り返したりしないんだから!)
今度こそ、幸せを掴み損ねないよう、リバウンドには要注意。
ならばとフランシスの口元に、せっせとケーキを運ぶ作戦にでた。
嬉しそうに食べる姿に心を奪われて、仲睦まじく過ごしたのであった。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )❤︎
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