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秘密のダイエット計画!

 トルテ国の国土半分を占めるのは、年中雪をまとう山脈。その雪解け水は、広大な荘園を(うるお)す大切な水源の役目を果たしている。

 荘園は国で最も大きい南のクルヘン公爵領にあり、豊潤な大地と清らかな水のおかげで毎年の収穫は良好だ。


 西には穏やかな海が広がり、交易の盛んな港町を治めるティライス公爵領。

 東は隣国との境にある荒野に面しており、守備の役目を担うジェラト公爵領がある。

 後方に山脈を掲げ、三方向に領地を構えた中央に王都が置かれ、王家とモンテビア筆頭公爵家が協力をして王都を治めていた。


 この四つの公爵家――モンテビア筆頭公爵家、南領・クルヘン公爵家、東領・ジェラト公爵家、西領・ティライス公爵家――通称『四大公爵』が、トルテ国と王家を支える(いしずえ)を担っているのだ。


 シルフォン伯爵家は、南の領地を治めるクルヘン公爵家に属する従属貴族のひとつ。

 田園風景に囲まれたのどかな場所に、シルフォン伯爵家のカントリーハウスは建てられている。

 オフシーズンになると、コレットは毎年ここで、のんびり余暇を過ごしていた。


 去年までは。


「はっはっふっふっ――」

 田園の広がるのどかな景色のなかを、ガンガンに歩き回るコレットの姿があった。

 ボンネットに、ローヒールの編み上げブーツ。薄手のワンピースを身にまとった彼女は、侍女のミアを引き連れて、毎日午前中に三時間のウォーキングをしている。

 ハイヒールをへし折り、最愛の婚約者と気まずい思いをしたあの日。コレットは弟アンリの見舞われた悲劇に、自分の将来を重ねた。

 このままではジルベールに愛想を尽かされてしまうかもしれない。そう思った彼女は、シーズン中の外せない舞踏会や茶会を済ませると、さっさと領地に引っ込んだのだ。

 カントリーハウスに到着するなり、顔なじみの家人にメイドたちを集合させて、宣言をした。


「私、ダイエットします。みんな協力してちょうだい!」


 コレットもアンリも、これまで周囲の好意はすべて受け取ることを正として生きてきた。その結果、自分たちの体が大きく育つことは、問題視してこなかった。

 それが、弟のアンリが婚約者と悲惨な結末を迎えたことで、『体型=自己管理』という大切な考え方を知ったのだ。


「私はスレンダーな体型のミアと同じ食事を摂ることにします。それから午前中は領地の山を歩いて、午後は乗馬をして過ごそうと思うの」


 事前に用意していた計画を披露し、周りを巻き込んでダイエットをはじめようとした。

 もちろん、姉弟をあまやかしつづけてきた家人やメイドは難色を示し、強く反対をしてくる。


「主人が家人と同じ食事内容など、とんでもない!」

「散歩ならお庭で花を愛でながら、お茶の合間になさってはいかがですか?」

「乗馬ではなく、刺繍や読書をお勧めいたします!」


 怒涛の反対意見がでるなか、コレットはアンリに起こった不幸を説明して、滾々(こんこん)と彼らを説き伏せていく。

 優しく朗らかなコレットの変貌ぶりに、シルフォン家は一時騒然となった。


「とにかく、私はジルベール様のために痩せたいんです! みんな協力してくださいますね」

 そう締めくくられれば、最後には拒否する者はひとりもいなくなったのだった。


「はっはっふっふっ――」

 あれから四ヶ月が過ぎ、コレットはその容姿を見事に変貌させていた。

 腰には括れが生まれ、浮腫みはなくなり、まるで背中に羽が生えたかのように体が軽い。

 以前のコレットは身に着けるものすべてが店頭に取り扱いのないサイズで、フルオーダーメイドにするしかなかった。

 それが今では店頭で購入可能な既製品を着られるほど細身にまでなったのだ。

 既製品を購入しようとしたら、当初は家人たちから猛反対があった。けれど勢いよくサイズダウンする体は、オーダーメイドを待てる余裕などないのである。


(普通の令嬢ならフルオーダーメイドを尊ぶのでしょうけど、でも、今の私は違うのよ!)

 コレットの歩みが早くなる。草露で足元が湿ろうとも泥が跳ねようともお構いなしだ。

 オーダーメイドのドレスでは汚れを気にしなければならず、思いきり野道を歩き回れない。安価な既製品は魅力的なのであった。


「お嬢様、コレット様! そろそろ昼食の時間ですから戻りましょう」

「はーい! お昼ご飯はなにかしら。楽しみだわ♪」

 食べる量は減ったが食べることが大好きなコレットは、今では()()()()まで減ってしまった貴重な食事に心を躍らせる日々をおくっていた。


 ****


 午後、食後の紅茶を片手に、コレットは弟のアンリから届いた手紙を読んでいた。

 果肉入りフルーツティは、あまいものへの欲求を誤魔化してくれる心強いひと品だ。


「ふふふ、アンリったら痩せたのがよっぽど嬉しいみたい。早く私に会いたいってまた書いてあるのよ」

「それは、喜ばしいことでございますね」


 騎士団の厳しい訓練に身を投じた結果、アンリもまたコレット同様に自慢したくなるほどの変貌をとげたようである。


「最初の三ヶ月は家族にも連絡を寄こさなかったから心配したけど、充実しているみたい」


 入団当初、アンリは体型を理由に冷遇される厳しい状況に置かれていた。そんなアンリを所属隊の隊長が庇ってくれて、徐々に周囲へ馴染めるようになったのだ。

 家族に啖呵を切って出ていった手前、結果のでないうちは帰れないと思ったらしく、状況がよくなってから手紙が届いた。


「うまくいかないことを知らせたくなかったなんて。相変わらずの完璧主義ね」


 しっかり者で、目的意識が高く、自分に厳しい、弟らしい行動だった。

 だからこそ、入団のきっかけとなった婚約破棄は、アンリにとって耐えがたい苦痛を与え、彼の人生を大きく変えてしまったのだろう。


「アンリによくしてくれた隊長、ジェラト公爵令息のフランシス様から、晩餐会に招待されたのですって。私と一緒に出席してほしいって書いてあるわ」


 ジェラト公爵家といえば、四大公爵のひとつ。高貴な家柄の令息から幸運にも目をかけてもらた弟のたってのお願いである。


「喜んで参加しなければと思うのだけど、どうかしら?」

「はい。アンリ様のためにも参加するのがよろしいかと」


 コレットは大きく頷くと、快諾の手紙をだした。

 ただ、気乗りしない理由がひとつだけある。

 本当は一番はじめは、ジルベールにこの姿を披露したいと思っていたのだ

 シーズン最初の舞踏会は、いつも一緒に参加していたので、てっきりそうなるものだと思っていたのに。


(でも、最近ジルベール様からお手紙が届かないのよね。もう少ししたら今シーズンの予定がくるはずだけど……)


 ハイヒール事件のあと、特に事情を説明せずに領地に戻ったコレットの元には、ジルベールからたくさんの手紙が届いていた。

 オフシーズン中の旅行やデートの誘いもあったのだが、これらは断腸の思いで断ったのだ。

 徐々に手紙の頻度は減っていき、今月に入ってからは、まだ一通も届いていない。


「もうすぐ王都のタウンハウスに戻る時期だから、そのときに話せばいいわよね」

 あと一ヶ月もすれば、舞踏会シーズンがはじまる。


【お願い事】


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(執筆活動の励みになるので、ぜひに!!)


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