波乱のお披露目会(7)
「どうして、みんな、そんなこというのよ!」
癇癪声に驚いた侍女のセレサが、飛び込んできた。
柱の影で待機していたようで、レティシアのことを落ち着かせようと必死にとりなしている。
「レティシア様、落ち着いてくださいませ」
「セレサ、アレをだしてちょうだい!」
「アレでございますか。かしこまりました」
セレサは、どこに隠し持っていたのか疑いたくなる厚さの本を取りだした。受け取ったレティシアが、コレットのそばまで駆け寄ってくる。
その顔には、怒りも嫌悪も見当たない。なにやら嬉しそうに、艶めく笑顔を浮かべていた。
「わたくし、七つも離れた殿方など守備範囲外ですわ。ダンスが下手なわたくしの最適なパートナーがフランシスだっただけです」
「そ、そうなの、ですか」
「はい。それとこれを。本当はふたりきりのときにお渡ししたかったのですけど、非常事態ですから仕方がありません」
分厚い本が、コレットに手渡された。
「これを見てくだされば、わたくしがコレットお姉さまの味方だとご理解いただけるはず」
手作り風の厚い表紙には、なにも書かれていない。
「こちらは、一体なんの本でございますか?」
「フランシスの個人情報ですわ!」
胸を張り腰に手をあててふんぞり返るレティシアは、満足げだ。
「コレットお姉さまの想い人を調べるくらい、第二王女であれば造作もないのです!」
唖然とするコレットの横で、フランシスは己の身におきた珍事に戦慄していた。
いち早く意識を取り戻すと、身の危機を脱するために、コレットが持っている本を取り上げる。
「な、なんてものを集めたんですか! まったく、没収しますよ」
「あ、返して。これはコレットお姉さまにプレゼントするの!」
「必要ありません。殿下はなにを考えているのですか!」
立ち上がり手の届かない位置まで本を挙げたフランシスの足元で、膨れっ面のレティシアが本を取り返そうとぴょんぴょん跳ねている。
「そんなことないもん。アガットお姉さまは喜んでくれたもん!」
耳を疑った。遥か遠い異国の地で、この王女姉妹は一体なにをやらかしているのか。
間諜や密偵のような行為が知られれば、国際問題になりかねない。またも恐怖で戦慄した。
「~~なんにせよ、没、収、です!」
個人情報なら記された本人こそに扱いを決める権利があるだろう。絶対に破棄するのだと決めたあと、ここへきた本当の目的を果たそうと動きだした。
「セレサ、兵士を呼んで、この男を医務室へ運んでくれ。しばらくは伸びて起きないはずだ」
「かしこまりました」
「ちょっと、どうしてセレサに頼むのですか。職務放棄だわ!」
「今日は殿下のエスコートが私の任務です。無事に役目は果たしましたから、ここからは自由にさせてもらいます。私はコレットと話さなければなりません」
床にへたりこみ、やり取りをぼんやりと眺めていたコレットは、名前を呼ばれて戸惑っている。
先ほどの本をフランシスに手渡されて、本ごと抱き上られた。ハイヒールを折った過去の気まずい過去が頭をよぎり、思わず悲鳴をあげてしまう。
「フランシス様、いけません。私、重たいので!」
拒否するコレットをものともせず、フランシスはさっさとその腕におさめた。
「ご冗談を。羽根のように軽いのに」
「それこそ冗談ですよね!?」
颯爽と立ち去っていく背中に、レティシアが捨て台詞を投げつける。
「お姉さまを独り占めしたら、容赦しませんからね!」
ふたりがいってしまったあと、レティシアは周囲を見回した。伸びた男とふたりきりだ。
「もう、フランシスったら、やっぱり職務放棄じゃない!」
ぷりぷり怒ったレティシアだが、少しのあいだセレサが戻ってくるのを待った。
「もし、レティシア殿下」
招待客の女性に声を掛けられた。こんな場所に偶然通り掛かったのだろうか。
「わたくしの連れの男性です。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
少し警戒したレティシアだが、倒れた男の知人だったらしい。
「ちょうどいいところにいらしてくださいました。侍女が兵士を連れて戻ってきますから、医務室か帰りの馬車に運ぶかしてあげてください」
「はい」
ドレスの裾をひるがえし、レティシアはお披露目会の会場へと戻っていく。
恍惚とした顔のフルールが、倒れているジルベールの元へ近づいていった。
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