波乱のお披露目会(4)
ダンスホールで、レティシアの手を取って踊るフランシスは気もそぞろになっていた。
先ほどは、ランベルトたちがコレットに話し掛けて、なにやら揉めていた。
やっとどこかへ去っていったと思ったら、次はジルベールが彼女の背後に立ったのだ。
ときおり振り向くので、コレットはジルベールと話をしていることがわかる。
(手ひどい仕打ちをしておいて、まだ復縁を狙っているのか。――ふざけるなよ)
今すぐに、あそこへ行って一発殴ってやりたい。
暴走する感情を、理性が押しとどめてはいるが、限界は近そうだ。
(どうして、こんなことに――)
めずらしく、フランシスは後悔していた。
四大公爵ジェラト家は、筆頭公爵のモンテビア家に次ぐ古い貴族である。
古の時代より王家に騎士として仕え、降下した王女を何度か受け入れたこともある。その血は王家に縁のある由緒ある家柄。
ただし王配候補のなかで、ジェラト公爵家が選ばれる可能性は低かった。
最有力はモンテビア筆頭公爵家とされ、競っているのは新興貴族のティライス公爵家である。
ティライス領の貿易港は、近年周辺諸国からの輸入交易が盛んになり勢いづいていた。末席の公爵家とはいえ無視できない存在に急成長したのである。
王家が関係を強化したいと思う一方で、トルテ国の資源を輸出品として多く取り扱いたいティライス公爵家の思惑は一致していた。
ただし国土の半分が雪山であるトルテ国の資源はかぎりがある。農耕を一手に引き受けるクルヘン公爵家は、ティライス公爵の目論見を警戒した。
数多の鉱山資源が眠ると期待された山脈を治めるモンテビア公爵家も、然りである。
王家とティライス公爵家、モンテビア公爵家とクルヘン公爵家の膠着状態により、長らく王配選定は先延ばされてきたのだ。
ここまでフランシスは、緩衝材としての役割を忠実にこなしてきた。王配が決まり第一王女のアガットが女王に就任したのなら、騎士として忠誠を誓い生涯を捧げるのだと信じていた。
誰もが思い描いた未来は、アガットの心変で崩れ去ってしまう。
忠誠心を捧げるはずだった相手を失ったフランシスは、代わり映えのしない毎日を過ごしていた。
一変したのは、急遽開いた晩餐会の日だ。
はじめは衝撃だった。残酷な裏切り行為に涙を堪える姿は、見ている側の心まで抉りとった。
次は感動。誰もが頭を抱えていた第二王女の問題を解決してしまったのだ。
興味を持ち、話し掛けたら、なぜか叱られて。感情が芽吹くのは一瞬だった。
(彼女は相手の不義理でつらい思いをしたばかりだった。いい加減な態度で接するべきではないと思ったんだ――)
少しずつ立ち直っていくコレットを、手に入れたいと思った。
世界が様変わりしたのなら、周囲の事情に合わせて惰性で生きることなどできなくなった。
王家に掛け合い、王配候補から抜けることを申し出た。返事はかなり渋られたが、レティシアのお披露目会で貢献することを引き換えに、約束をとりつけたのだ。
なにも間違ってはいない。なのにコレットの態度がよそよそしくなり、誘いの手紙には未だ返事をもらえずにいる。
様子を知りたくてアンリを送り込めば、塞ぎ込んでいると聞かされた。
周囲の噂を集めれば、フランシスがレティシアの王配候補だと噂が流れていたのだ。
(暇な連中の戯言か、王配から抜けるのを先延ばしにさせたい要人たちが流したか――)
王家と四大公爵の不安定な均衡から、緩衝材が抜けるのは、どちらもいい顔をしないだろうとは思っていた。行く手を阻む者たちの妨害に、苛立ちを覚える。
(でも、コレットが噂を気にしたのなら、こちらに気があるということだろう)
可能性があるから焦る必要はないと、衝動を説き伏せた。
レティシアのエスコートが終われば、誰になにをいわれても突っぱねられる。
本当はコレットへの想いを自覚したときに、彼女に誓いを立てたかった。
すべてが整うまで耐えて、やっと正々堂々と気持ちを伝える準備を整えつつあるというのに。
曲が終盤に差し掛かり、レティシアがフランシスの片手を握ってクルクルと回る。
終わりのポーズをとる直前にコレットが人混みに紛れて、そのあとをジルベールが追いかけていくのを捉えた。
曲の終わりとともに、盛大な拍手が会場に響き渡る。
(どうして、こんなことに――)
相手は人でなしのジルベールである。どんな悪どい手でも使うだろう。
なりふり構わなくなった相手に、正攻法で挑むなど愚かな選択だったのだ。
脳内で警鐘が鳴り響く。
遠慮している場合ではないのだと思い知った。
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