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あまいお菓子にコルセットはいかが?    ~痩せて綺麗になったのに婚約解消されてしまった令嬢は、公爵令息に求婚される~  作者: 咲倉 未来
第1部:3章

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芽生える恋心(2)

「ごきげんよう、レティシア様」

「いらっしゃいませ、コレットお姉さま。寒かったでしょう? 今温かいお茶をだしますね」


 パタパタと近寄ってきたレティシアは、コレットを座らせてその横に腰を降ろした。セレサが淹れてくれたお茶をいただき、体を温める。


「今日はレティシア様にお願いがあってまいりましたの」

「まぁ、わたくしにですか? どのようなお願いでしょうか」

「実は先日参加したガーデンパーティで――」


 話がすすむにつれ、レティシアの顔はどんどん曇っていった。


 年の近い令嬢を招いた茶会で、悪態をついた記憶はある。彼女たちとは顔を合わせづらく、できることなら金輪際会いたいくないというのが、レティシアの本音であった。


「そういう訳にもいかないことも、レティシア様は理解されていますよね」

「そうですけど。でも、今さら……」

「ただ笑顔で挨拶すればいいのです。まずは、かたちだけでも大丈夫ですから」

「……みんな、許してくれるかしら」


 ガーデンパーティで会った令嬢たちと、同じことを気にしている。

 互いに仲良くしたいという気持ちがあるなら、きっかけさえあれば解決するはず。


「みんな、レティシア様と仲良くしたいから、私に相談にきたのですよ」

 うにゅっと口をゆがめて、レティシアは小さく頷いた。


「重たい話はこれくらいにしましょう。今日は内緒でお菓子をもってきたのです」

 きっとレティシアが落ち込むだろうから、と用意しておいた。

 小分けの袋を手渡した。中身はひとくちサイズのクッキーが入っている。


「あまくて、ほろほろサクサクで、おいしい!」

 笑顔で頬張るレティシアは、コレットがお茶しか飲んでいないことに気がついた。


「お姉さまは、まだダイエットを頑張られているのですか?」

「えっと、最近少し食欲がなくて。食べ過ぎはドレスに支障がでるのでちょうどいいのですけど」

「そうですか。――なら、楽しいお話をしましょう!」


 元気になったレティシアの提案に、コレットは喜んで頷いたのだが。

「女子会といえば恋バナです! コレットお姉さまの想い人を、ずばり当てます!」

「っ!?」

「ジェラト公爵家令息のフランシス!」

「ちちちち、違います。どうして、そんなっ!」


 動揺してティーカップを落としそうになった。中身はちょっとだけ零れてしまった。

 ドレスが染みにならないうちにとハンカチで拭きながら、無心で否定しつづける。


「むぅ。わたくし、そういった勘はよく当たるのに。おかしい――」

「違います!」


 きっぱり強めに否定しておいた。


 ****


「お嬢様、姿勢が悪くなっています。しゃんとしてください」

「寒いから、ちょっと無理だわ」

 コレットは、今はなき脂肪に思いを馳せた。痩せるとこんなに寒いだなんて聞いていない。

 窓の外には、曇天とチラチラ舞い降りる雪がみえる。


(太っていたときは、庭で雪うさぎを作って遊べていたのに。――無理だわ)

 憂鬱になり小さく溜息をつく。


「今日は宮廷植物園に寄らないのですか?」

「運動して汗をかくと帰りに寒さで冷えるもの。体型はキープしているから少しくらい平気よ」

「騎士団への差し入れも、コレット様が一緒じゃないことをアンリ様が寂しがっていました」

「レティシア様の件があったから仕方ないでしょ。それに弟は寂しがったりしないわ」


 冬は世界の色が消えてなくなる。白銀の清らかな風情が、なぜか色褪せてみえていた。

 ふぅ、と息をつく。このところ寒さのせいで気分が沈みがちだった。


「カロリーヌ様を誘って、雪見の茶会をするのはいかがでしょう?」

 溜息が増えて、時折ぼぅっとしてるいことが多い。大好きなあまいお菓子にも興味を失いつつあるコレットを、ミアは心配していた。

 友人であるカロリーヌであれば、主の悩みを聞きだして解決してくれるだろうに。


「ドレスの追い込みをしているから、邪魔してはいけないわ」

 提案をあっさりと断られてしまい、ミアは黙った。

 ふたたび溜息をつく。胸のあたりが苦しく呼吸がしづらい。冬の冷たい空気のせいだろうか。


「っ!」

 遠くに現れた人影が視界に飛び込んできた。


 誰なのかすぐにわかってしまい、途方に暮れる。

 褪せた世界が色彩を取り戻していくのを、心が弾んで寒も失せていくのを、静かに感じた。


 元婚約者のことも、どんなに遠くからでも判別がついたことを思い出す。

 胸が苦しくなる切なさを知っている。世界が歓喜に満ちる瞬間も、かつて体験したことがあった。


「こんにちは、コレット」

「ごきげんよう、フランシス様」


 警告が鳴ったのは一瞬で、すぐに口元が綻び、胸元にじんわりとした喜びがあふれていく。


「受付係から差し入れがあったと聞きました。いつもありがとうございます」

「まあ、お礼など不要です。アンリがお世話になっていますから」


 いつもの騎士服ではなく、動きやすい軽装姿で城内にいることが、気になった。

「フランシス様は、もしかしてレティシア様のダンスレッスンに参加されるのですか?」

「ええ、よくご存じですね」

「偶然、耳にする機会がありましたから。お披露目会のパートナーもフランシス様が?」

「そうなります。王家より指名がありましたから」


 心の内を悟られまいと、笑った。まだ、間に合う。きっと引き返せる。


「フランシス様は、ダンスがお上手でしたもの」

「お褒めにあずかり光栄です。では、また近いうちにお相手していただけますか?」


 頷けるはずがなかった。断る理由しか思い浮かばない。


「レティシア様は当日素敵なダンスが踊れますね。どうかお支えしてあげてください」

「ええ。――その点は、お任せください」


 堪えきれずに視線を外した。用事があるからと断って別れを告げる。


(これで、いいのよ――)

 どんなに言い聞かせようとも、恋に落ちていくことを止められないのなら、やんわりと距離をとるべきだ。


 やっと抜け出せたはずの暗がりへ、悲鳴をあげる心を沈めて蓋をした。

【お願い事】


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