♥ 真夜中の花嫁「 夏のホラー2020 」
シャークシャクシャクシャク──。
ツクツクツクツクツクホーシ──。
ミンミンミンミンミーンミーンミーン──。
ジジジジジジジジジージー──。
色んな蝉の鳴き声が聞こえる夜間の公園。
シン──と静まり返っている公園には蝉達の鳴き声が響いていて、まるで鳴き声のオーケストラを独り占めしている気分になる。
かぁーーーーーっ!!
「 夏だねぇ〜〜! 」
オレはベンチに腰を下ろして座っている。
コンビニで買ったアイスを食べながら、そよぐ風を肌に受けながら、蝉達のオーケストラに耳を傾けていると、バシッ──と背中を叩かれた。
「 ──い゛ってぇ〜〜〜。
何すんだよ、憂太! 」
「 待たせちゃって、ごめんね… 」
「 いいよ。
今、蝉達のオーケストラを聞いてた所だから 」
「 蝉達のオーケストラ?
あぁ…鳴き声が煩いもんね。
オーケストラかぁ…。
ふふふ…(////)」
「 どした? 」
「 うぅん。
同じ事を言ってた友達が居たから懐かしくて… 」
「 そうか?
アイスも食べ終わったし、行くとしますか! 」
「 本当に行くの? 」
「 行くに決まってるだろ!
晃大も達平も現地に集合してるだろうしな 」
「 …………気が進まないけど… 」
…………そう…僕は気が進まない。
真夜中の嫁峅駅に “ 出る ” と噂されている “ 花嫁の幽霊 ” をスマホで撮影してネットに動画をアップする気満々な男が3人も居る。
晃大,達平は有人の昔馴染みの友達でオカルトが好きみたい。
僕は有人の友人。
誘いを断る理由が見付からなくて、此処に居る…。
閠也の誘いなら喜んで受けるんだけどな……。
「 ──お待たせ! 」
「 遅ぇよ、有人! 」
「 さっさと行こうぜ! 」
有人とハイタッチをしたのは晃大と達平。
3人は小学生からの腐れ縁で親友らしい。
有人と僕は大学で知り合った仲だから、晃大と達平とは未だ数回しか会っていない。
3人はお構いなしに深夜の嫁峅駅の中へ入って行く。
行きたくないけど、僕も嫁峅駅の中へ入った。
有人,晃大,達平は自分達のスマホで駅の中を撮影しながら歩いている。
真夜中の駅は、シン──と静まり返っていて不気味。
賑やかで、ざわついている昼間の駅の方が好きだな…。
何時の間にか有人と2人だけになっていた。
「 有人、そろそろ帰らない?
もう1時間経ってるし… 」
「 そうだな…。
じゃあ、もう1時間だけ回ろう!
それで何も起きなかったら、今夜はお開きな! 」
「 今夜は?
今日で止めないの? 」
「 止めるわけないだろ〜。
花嫁が撮れるまで続けるさ!
オレ達もホームヘ行こうぜ! 」
「 …………うん… 」
「 は〜ぁ……。
結局、何も映らなかったな…… 」
「 そ…そうだね……。
2人共…遅いね? 」
「 あぁ…晃大と達平はもう少し粘るってさ。
オレ達は切り上げて帰ろう。
ラインも送っといたしな 」
「 ──じゃあ、僕はこれで…… 」
「 おう、付き合ってくれてサンキューな!
マンションに着く前に襲われるなよ★ 」
「 僕、これでも合気道の有段者だよ。
大丈夫! 」
嫁峅駅の前で有人と別れて帰宅する。
この日から始まったんだよね……。
誰かの……何かの視線を感じるようになったのは……。
用を足し終えて、手を洗っていた時、トイレの鏡に映り込んでいた白いレース……みたいなのを見てしまったからなのかな?
トイレに白いレースなんてある筈ないし……。
あれは花嫁のヴェール??
そんな筈…ないよね??
翌日、スマホに有人から連絡が入っていた。
晃大,達平と連絡が取れないって困っていたみたい。
お昼のニュース番組の中で、【 嫁峅駅に設置されているベンチに2つの眼球を抉り取られた死体が放置されていた 】という痛ましいニュースが報道されていた。
死体はもう1体あって、【 5番線ホームと6番線ホームの線路の真ん中に放置されていて、やはり2つの眼球が抉り取られている状態で発見された 】と報道されていた。
スマホが2台発見されたけど、【 データのバックアップが不可能な程にバキバキに壊されていた 】とも報道された。
もしかして──と思っていたけど…身元確認で案の定、晃大と達平の遺体だった事が判明した。
晃大と達平は嫁峅駅に残って撮影を続けていた。
一体何が2人をあんな酷い目に合わせたのだろう……。
白いレースが関係しているのかな?
1ヵ月後、有人と連絡が取れない。
電話を掛けても通じないし、メールをしても返信がない。
ラインをしても既読が付かない。
「 忙しいのかな? 」って思って放っておく事にした。
珍しく有人からラインが届いていたから、有人からのコメントを読んでみたら「 ツギハオマエダ 」って赤文字で打たれていた。
………………あぁ…やっぱり…ちゃんと断って、行かなければ良かった……。
こんなオカルト紛いな事をマトモに相談の出来る相手なんて、生憎と僕には1人しか居ない。
きっと…閠也なら何かアドバイスをしてくれるかも知れない。
閠也に会う口実に使おうとしてる僕は『 いけない友人 』かな?
僕は閠也が立ち上げて管理しているサイトを毎日チェックしている。
閠也と僕を繋いでくれているのは、この怪奇サイトだけ。
投稿してみようかな……。
ううん、折角だし、直接会って相談しよう。
何時僕が有人,晃大,達平みたいになるか分からないから──。
今日も見られている。
最近は家の鏡にも白いヴェールや白いウェディングドレスが映り込むようになった。
閠也の管理している怪奇サイトで嫁峅駅の都市伝説を見付けた。
結婚式の当日に、花婿の控え室を訪れた花嫁が、花婿と自分の姉が抱き合って濃厚なキスをしている場面を目撃してしまったらしい。
式場を飛び出した花嫁は、嫁峅駅の線路の真上にある橋から身を投げたそうだ。
橋の上からウェディングドレスに身を包んだ花嫁が落ちて来て、運悪く発車した電車の先頭車とぶつかって、バラバラになって亡くなったらしい。
花嫁の一家は多額の賠償金やらを支払わなければならなくなって、一家心中したんだとか。
花婿は何処かの駅で死体で発見されたけど、2つの眼球が抉り取られていたらしい。
………………笑えないなぁ…この都市伝説……。
だって……この花婿の遺体の状態と有人,晃大,達平の遺体の状態が被ってるんだから──。
………………死ぬ前に閠也へ気持ちを伝えよう。
閠也は困るかも知れないけれど、最後に僕の気持ちを知ってもらいたいから────。
◎ 迷惑行為になる飛び降り自殺はしないでください。