≪1≫
≪魔力≫を得た者は15歳になると、三大大国と称される≪ラウスブルグ大陸≫のほぼ中央に位置する≪グランヴェル王国≫、大陸の西方にある≪帝ラングレン皇国≫、大陸の東方にある≪聖テクスフォルト王国≫の三国のいずれかに存在する≪マナアカデミー≫である学院に所属する事となる。
殆どの者達は生まれ育った国の学院に所属するだろう。
しかし彼らは違った。
目元が隠れる長さの15歳の若さではありえないであろう≪白髪≫の少年と、その少年に付き添う長めの黒髪をポニーテールに纏めている少女の二人。
二人は生まれ故郷である≪帝ラングレン皇国≫でなく遠い東方の≪聖テクスフォルト王国≫にある≪クローワルツ学院≫を選んだ。
それは白髪の少年にとって故郷は既にないといえたからだ。
少年は≪帝ラングレン皇国≫において【その家名を知らないものはいない】という有名所出身だった。
しかし【とある理由】から実の父と母違いの義兄にある年に”毒暗殺”され生死の境を彷徨う経験を負った。
傍付きである黒髪の少女の機転にて、少年はその時何とか生き延びる事が出来た。
毒は解毒されたが、強力な毒であったため少年の体には幾つかの後遺症を抱える結果となった。
しかしその【暗殺事件】がきっかけで少年はその身の奥底に眠っていた≪魔力≫を目覚めさせる事が出来たのは皮肉としか言えない。
しかも、一般では15歳に≪学院≫に入学する際の儀式で得るはずの≪階位≫にも目覚めた。
そして事件から3年後の15歳になり自分の≪魔力≫と≪階位≫をより深く知り力を得たいと考えて少年はすでに故郷である≪帝国≫の実家から【病死した人間】と周知されているので≪帝国≫から大きく距離のある≪聖王国≫にある≪クローワルツ学院≫を選んだ。
「リゼル様がそう望まれるのでしたら、このシアネ、何処までもお付き合いします」
「ありがと、シアネ。ああ、あと俺の事は『様』付けで呼ぶのは駄目だからね。今の俺は…ただのリゼルなんだから」
「わかりました、リゼルさ…ん…」
「あはは、まあ学院入学までに慣れてくれ」
「はい…。それでは。リゼルさん、体力は並以下ですから入学に遅れない程度のペースで行きましょう」
「あ、あはは…そうだね」
幼い頃から同い年と言う事もあり近しい子。
今までも、そしてこれからも彼女には迷惑を沢山掛けてしまうだろう。
リゼルは幼馴染兼侍女のシアネに感謝をしつつ隠れた辺境から旅立つ。
行先は≪聖テクスフォルト王国≫。
そして―――。
今、リゼルは好奇とも奇異と言える視線を、≪聖立=クローワルツ学院≫に今年入学する同年の少年少女から集めていた。