9話
この世界にはレベルと言えるものが、目に見える形で存在している。主に魔物を討伐する事で上がるそれは、生き物同士での優劣を決める重要な数値だ。少なくとも、それが未だに1である私は不審死に関して審問官にも疑われていない。
主として教会の内部の不義を是正する審問官は、まあ裏で実際に何をしているかは以前の予想からそう離れていないと思われるものの、外面だけならば誠実な信徒である私をむしろ危険から遠ざけたいとすら思ったのだろう。
故に、危険から遠ざかる必要のある人間、つまり王族や貴族、あるいは高いレベルが求められる騎士などが通う正に上流階級の証である学院とやらに教会きっての秘蔵っ子という鳴り物入りを果たすことになった次第である。
無論、将来的に司祭などの役職に就くにあたり万人を法術によって治療するためにも高いレベルにならなければならないという建前は非常に納得できるものだが、普通の神官であれば冒険者などに混ざっているにも拘わらず、というのは贅沢な悩みか。
社交の場でもあり、訓練を行う場所でもあり、知識や教養すら教えられ、護衛付きで安全にレベルを上げる事の出来る温室。教会から神官が入る事も無かったわけでは無いものの、それまでの最年少を塗り替えるほどの子供。
当然ながら、大多数が興味を引かれたようである。流石にもみくちゃにされるほどの子供の集まりではないが、精々が少年少女といった程度。麒麟児などと持て囃される子供に近づくのはまあ、親に言われたから以外の理由とてあるのだろう。
だからまあ、実に具合の悪い事も起こりうるわけで。それまでちやほやされていた王家のご子息が、今までの人気をぽっと出の子供に取られればどう思うのかなんて、簡単に想像がつく。いわんや、大義名分もあればなおさらだ。
曰く、他人を奴隷のようにこき使うのが果たして神官として正しいのか、公正で清廉な神官らしく己が修行を行うなら良し、さもなくば正義の下に私が鉄槌を下す。と言われながら手袋を投げつけてくれば、要件などたったの一つであろう。
生憎と他人に知られるにはよろしくない情報も持ち合わせている彼女を手放す気は無いが、それ以上にこちらが離れてくれと頼んだところで聞いてはくれない世話役なのだが。まあ彼がどのようにものを見ているかなど私に管理できるはずもなく。
君を助けるなどとほざいてくれればこちらもそれ相応にお花畑を枯らす準備も出来たのだが、あくまでも目的は私のようで。であれば久しぶりに目から光の消えた世話役をけしかけても不利益しかないだろう。