6話
前世における偉人の功績の横領ともいえるそれは、その全てにおいてはほんの些細な事であってもなお私の地位を上げるには充分なもので。神の恩寵を受けた、正に神童などと持て囃されるのにそう時間はかからなかった。
幼児特有の舌足らずなしゃべり方からも卒業し、無駄に洗練された無駄の塊のような詠唱も一通り諳んじる事が出来るようになったのは、会話量のそう多くは無い同世代に比べれば格段に早く、そういったもろもろは確実に実績となって積み重なっていく。
だからまあ、高位司祭がさも当然の様に使っている見習いを一人、世話役として付けられることになったのは、多分おかしなことではないんだろう。むしろ同世代の友人を作るための粋な計らいという可能性も存在している筈だ。
清廉潔白な教会の神官が、まさか派閥争いなどという下らない権力闘争に熱心になった挙句、色よい返事をしない事に業を煮やしてハニトラ兼スパイとでもいうような、それでいて嫌がらせに近い絶妙な人選を行うだなんてそんな、ねぇ?
というわけで私の世話役として働くことになったのは、私と同じ程度の背丈で、そこはかとなく耳が尖っていたことを匂わせつつも明らかに「矯正」された跡があり、何某かの薬品により声の出せなくなっていると思われる、どんよりと翠色に濁った隻眼の少女であった。
こういうのを、果たして前世では何と評するのだったか。草生えるだったか、草すら生えぬだったか。二チャリとした笑みを浮かべながら説明する人型の糞と、それに対して怯えはおろか碌な反応をしない彼女。危うく原因不明の突然死が目の前で起きるところで。
どちらかと言えば、自分は薄情な人間だと考えていたが、まあ多分それは正解のはずだ。でなければ、頭の中を過る冷たい計算など放っておいて実際に行動に移していた筈だから。目の前で死なれれば、何らかの関与を疑われるに決まっているなどと。
明確に敵対する事を愚と断じ、あたかも靡いたかのように笑顔で見送ることなど、きっとそんな汚い現実を全て解決できるほどに私に才能が有ればせずに済んだことで。足りない代償に支払うのは、元々欠けたような人間性。
あくまでも、そう、あくまでも彼女は偶然事故によりその種族の特徴である耳が失われ、目がつぶれ、哀れなことに治療薬と称した毒を飲まされ、その代金を親が払えずに蒸発した為に孤児として教会に引き取られたに過ぎない。
その裏に何らかの関与があったかどうかなどは、果たして名言されていない以上空想上の産物、妄想でしかなく、決して傘下に入らない愚者の末路の暗示などでは無い。その証拠にあの人型の糞は全身に清廉潔白の証をでっぷりと身に纏っていた。