2話
どうやら前世とは異なるこの世界において、教育や勉学というのはそれほど重視されていないらしい。権利かつ義務として都合9年間、場合によっては更に倍以上を勉学に費やす前世とはどれ程過保護であったかと思うが、考えてみれば前世でも平均な訳では無かった。
勉学以前に識字率すら危ぶまれる事も、まあある話だとは知識としてあっても体験となると中々無いわけで。まあ考えようによっては前世などという知識こそあれど体験などというものは全て初めてになるわけだが。
まあ何が言いたいかと言えば、学ぶことを親に強請った結果として、教会に通うことになったという、ただそれだけの話である。どこの世界でも宗教のやることはそう変わらないらしい。前世の宗教にそこまで詳しいわけでもないが。
成金とまでは行かずとも、どうやら今生の両親は中々裕福な生活を営んでいるらしい。ささやかというには少し多めの寄付金の代わりに息子の教育をお願いできる程度には。絵か図面か分からないものとにらめっこする仕事は案外儲かるらしい。
これが限界集落の4男だったりすれば、ともすれば乳児の内に朝日を拝めなくなることもあったかもしれないが、そこはかとなく発展している街の、そこはかとなく裕福な家に生まれたのは、確実に運が良かったのだろう。前世も考えれば望外とすら言える。
話が逸れたが、そんなわけで私は教会で1年程勉学に近い事をやらせてもらっていた。最初は文字を読むにも読み方すら分からなかったが、他にすることも無しにそれだけに労力を注ぎ込めば、1年という期間は明らかに長いものだ。
むしろ文字の勉強などは最初の1月もあれば大概覚え、以降続いた算術などは語ることも無く、神話や観念、およそ世の理などについて学ぶことは多かったものの、それも半年も繰り返していれば概ねは理解できた。
人の良い神父を相手に、言葉遣いこそ年相応なものの明らかにハイペースで物事を学ぶ姿は、はたして周囲の目からはどのように映るのか。無論意識していなかったと言えば嘘だ。友人こそいないものの、という評価に関しては流石に物申したくはあったが。
かくして私は、神父の紹介により王都に移ることになった。最初は両親は反対していたが、神父が熱く説得を行ったためか、あるいは私のより良い将来だの才能を潰すだのという理由からか。最終的には、涙ながらに送り出してくれたのだった。