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アフタヌーン・ティー


 日陰の芝生の上に敷布を広げ、ティー・ポットとカップ・アンド・ソーサーが数客。

 おねえさんは、「クッションをたくさん用意しましたので、奥様は楽な格好で、横になってください」と言う。


 ひとり、ふたりと参加者が集まってきた。面識があるのは給仕長だけだ。

「奥様、お招きありがとうございます」

 へ? 私は何もしていない。あ、礼儀、挨拶としてか。


「ベックス、今日のお菓子はなあに?」

「アルバン・パン・ケーク!」

 ベックスと呼ばれた恰幅のいい料理長が、バスケットの中から小さなどら焼きのようなものを取りだした。もちろん、あんこはない。

 手のひらサイズのホットケーキ、っぽい。


「何でここ? 東庭ならユリが綺麗なのに」

 このひとは庭師の棟梁というには優しげ。

「旦那様よ。お部屋の窓から目が届かないって」

 おねえさんの返事にベックスが吹きだして笑った。

「ベタ惚れねぇ〜」


 四人の年上女性の目がキラキラと自分を見ていた。

 親友の陽葵に冷やかされたなら「エヘヘ」と笑えるけど、今はダメだ。

 俯いた。


「ほら、バルコニーから見てらっしゃる。旦那様ったら『日除けの天蓋を立てさせようか』と仰って、『それではお姿が隠れてしまいます』と申し上げたら、眉毛一つ動かさないくせに真っ赤になられて」

「サラも意地悪ねぇ」

 給仕長がおねえさんに言った。

 サラだ、私のお世話係さんの名前。


「必ず日陰でな、アレが倒れたのは炎天下のヒマワリ畑なのだからって」

 また4セットの羨望の瞳。

 皆は独身なんだろうか? 経験者はいない?

 

 お茶と呼ばれている物は、紅茶でも緑茶でもなかった。朝飲んだ時は気が付かなかった。カモミールやミント、日替わりでハーブを煎じて飲むらしい。

 

 給仕長さんが繊細な指でクロティッド・クリームらしきものを塗り、パンケークを手渡してくれた。


「うまーっ」


 伯爵夫人にそぐわない声を上げてベックスに感嘆の目を向けた。

「喜んでもらえて嬉しいっす」


 皆笑ってる。よかった。

 自分はここに居ていい、そんな気分になれた。


「そのヒマワリ畑ですけど、馬に乗るならまたお召し替えが要りますから、6時にはお部屋に居て下さいね」

「ハイ。でも、あの、夕食は?」


 7時に出かけるという中途半端さが気になっていた。午後のお茶だけで終わりだったら、夜旦那様から逃げるのに、ガス欠してしまう。


「お戻りになったらコールド・ミートをお出しします」と給仕長。

「パンとスープはいつでもあるんで」とベックス。

「そう、よかった」

 微笑んでおいて心配になる。


 7時から畑に行って夕食になって、8時とか9時とかの時間になって、お風呂に入って?

 ずっと旦那様と一緒で、いざ寝室になだれ込む、とかになったら?

 

 今日だけじゃない、これから毎日、夜が来るのを怯えて過ごすの?


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